
変人を好きになりました
第20章 思い違いの脱走
半ば強引に事務的に対処しているみたいだ。
「古都さん」
電話を耳に当てると空良くんの少し静かになった声が響いてきた。
『古都、本当に大丈夫なんだね?』
「うん。急にごめんね」
『…戻ってくるの待ってるよ。あと、宿谷さんの知り合いとか親戚には近づかないように』
「え? う、うん」
どうして? とは聞けなかった。すぐそこに宿谷さんがいる。
『柊一にも伝えておく』
クロタキさんの名前に息がつまりそうになった。私の怪我への責任感を負ったせいでクロタキさんの恋路を邪魔したくない。早くその女性の所へ行ってと伝言を頼もうかどうか迷ってやめた。
「うん。あ、でも……私がどこにいるかは言わないで」
『そんなの……言えるはずないよ』
「え?」
『なんでもない。柊一には上手く言っておくよ』
大人しく返事をすると携帯を置いた。
空良くんのあきらかな不満が電話越しに伝わってきたけれど、仕方ない。
ただクロタキさんは私がいなくなってどんな反応をするのだろうかと気になった。でも、私がいなくなった所で真面目な彼のことだ。私の目がどうとか苦いお茶を飲ませられなくなったことを心配するのだろう。
「どうかした?」
「いえ」
宿谷さんがダイニングテーブルに料理皿を並べていく。いつの間に作ったんだろう。
簡単にできるものだということは分かるけれど、どれもお洒落でセンスがないと作れないものばかりが並んだ。
完璧な人っているんだと畏敬の念を抱いた。
「そう。なんかぼんやりしてるようだけど」
「大丈夫です」
宿谷さんがフォークとナイフを綺麗に並べて、ワインの瓶に手をかけた。
「あの村井空良くんと話すことができるなんて思わなかったよ。すごく心配してたみたいだけど、本当に急にこんなところに来てもらって構わなかったのかな」
器用に手首を捻ってコルクを抜くと曇りひとつない綺麗なグラスにほのかに甘い香りのする白ワインを注いだ。空良くんは本当に有名人らしい。
「どうせ、家に帰るつもりはなかったんです」
宿谷さんが手を止めた。
「何があったのか、聞かないほうがいいかな」
男性特有の低く柔らかで静かな声が頭に振ってくる。
強要されているのでもなく、問われているのでもない。独り言みたいな声の調子だ。
「古都さん」
電話を耳に当てると空良くんの少し静かになった声が響いてきた。
『古都、本当に大丈夫なんだね?』
「うん。急にごめんね」
『…戻ってくるの待ってるよ。あと、宿谷さんの知り合いとか親戚には近づかないように』
「え? う、うん」
どうして? とは聞けなかった。すぐそこに宿谷さんがいる。
『柊一にも伝えておく』
クロタキさんの名前に息がつまりそうになった。私の怪我への責任感を負ったせいでクロタキさんの恋路を邪魔したくない。早くその女性の所へ行ってと伝言を頼もうかどうか迷ってやめた。
「うん。あ、でも……私がどこにいるかは言わないで」
『そんなの……言えるはずないよ』
「え?」
『なんでもない。柊一には上手く言っておくよ』
大人しく返事をすると携帯を置いた。
空良くんのあきらかな不満が電話越しに伝わってきたけれど、仕方ない。
ただクロタキさんは私がいなくなってどんな反応をするのだろうかと気になった。でも、私がいなくなった所で真面目な彼のことだ。私の目がどうとか苦いお茶を飲ませられなくなったことを心配するのだろう。
「どうかした?」
「いえ」
宿谷さんがダイニングテーブルに料理皿を並べていく。いつの間に作ったんだろう。
簡単にできるものだということは分かるけれど、どれもお洒落でセンスがないと作れないものばかりが並んだ。
完璧な人っているんだと畏敬の念を抱いた。
「そう。なんかぼんやりしてるようだけど」
「大丈夫です」
宿谷さんがフォークとナイフを綺麗に並べて、ワインの瓶に手をかけた。
「あの村井空良くんと話すことができるなんて思わなかったよ。すごく心配してたみたいだけど、本当に急にこんなところに来てもらって構わなかったのかな」
器用に手首を捻ってコルクを抜くと曇りひとつない綺麗なグラスにほのかに甘い香りのする白ワインを注いだ。空良くんは本当に有名人らしい。
「どうせ、家に帰るつもりはなかったんです」
宿谷さんが手を止めた。
「何があったのか、聞かないほうがいいかな」
男性特有の低く柔らかで静かな声が頭に振ってくる。
強要されているのでもなく、問われているのでもない。独り言みたいな声の調子だ。
