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変人を好きになりました

第21章 初恋の相手

「古都さんこっちへおいで」

 マンションに帰るなりさっさと自分の部屋に入っていったかと思えば、すぐにリビングへ飛び出してきた。なぜか嬉しそうな顔をしている宿谷さんに私は首を傾げる。


「包帯とっていい?」
「え」

 答えも待たず宿谷さんは私の頭の後ろに手を伸ばすとするりと右目を覆っていた包帯を解いてしまった。
 私は色の違う目を見られるのが嫌で目をぎゅっと瞑った。

 すると包帯が床に落ちたのか、足に柔らかい布が触れた。
 宿谷さんの手が私の頭を一撫でして、両耳に触れる。
 微かな重みを感じて驚いて目を開けた。


「あれ」
「どうかな」

 目の前にはにこにこした宿谷さんがはっきり見える。右目の視力は著しく低下しているから両目を開けていると遠近感がなくなってぼやけて見えるのに、どうしてだろう。

「その眼鏡、知り合いに頼んで作ってもらったんだ。ほら、目の色の違いもほとんど分からない」

 宿谷さんがいつの間にか手にしていた鏡を私に向けた。
 黒縁の眼鏡のレンズはいたって普通の透明レンズ。それなのに、右目の視界がしっかりと遮られているし、鏡に映る自分の瞳はたしかによく見なければ分からないほど黒に近い色をしていた。

「すごい……」
「これなら生活に支障をきたさないだろうと思ってね」
「これ頂いても?」
「もちろん。古都さんのために作ってもらったんだ。古都さんしか使えないさ」

 鏡に映る自分の顔をじっと見つめる。頬がだらしなく緩んでいるのが見てとれる。

 これで、今まで通り暮らせると思うと心が弾んだ。もう、なんでもできそうな気さえする。その上、もうすぐ世界トップクラスの治療を受けられるなんてもう何も望むことはない。


「宿谷さん……本当にありがとうございます。何てお礼を言っていいのか」
「お礼なんてとんでもない。古都さんにはこれからこちらがお世話になるからね。明日からまた秘書を頼むよ」

 宿谷さんの優しく微笑んだ顔が美しすぎて私は思わず数歩退いた。
 不思議そうな顔をする宿谷さんは自分の笑顔の破壊力を分かってないらしい。

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