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変人を好きになりました

第21章 初恋の相手

「こちらこそよろしくお願いします」と言いかけた時、インターホンが鳴った。


 宿谷さんが素早くリビングに備え付けられたモニターの前に行くと、玄関前にいる訪問者と少しやりとりをして受話器を置いた。

「少し待っていてくれるかい」

 私が頷くと、自然な動作で私の頭を軽く叩いてから長い廊下を歩いて行った。
「宅配か何かかな」
 そう呟きながらまた鏡で自分の顔を確認する。

 眼鏡なんてかけるのは初めてだけど、悪くないと思う。ちょっと頭が良さそうに見えるなと考えて一人でくすくすと笑いを漏らした。



「困る……。いや、だから……」

 不穏な空気が玄関から漂ってきた。
 宿谷さんの少し苛立ちを含んだ声が聞こえてきて私はリビングの扉を開けて廊下をそろりそろりと進む。
 背の高い宿谷さんよりも頭ひとつ大きいらしく玄関に立っている人の頭の上部がちらりと見える。

「どういうつもりですか」
「えっ……。クロタキさ、ん?」

 聞きなれた声に驚いた私は思わずその人の名前を口にしていた。
 驚いたのは玄関にいた二人のほうだったようで、一斉にこちらを見た。

 体を横にずらした宿谷さんのおかげで目の前にクロタキさんの姿が現れた。私は何を考える暇もなくクロタキさんに近付いた。


「古都さん!!」

 クロタキさんがすごい勢いで私を抱きしめた。

 急に抱きしめられた私は何が起こっているのか分からず、それでも心臓だけが全力疾走した後みたいに激しく動くのを感じていた。それにすごくすごく……心の底から幸せだと感じる。

 なんでここへ?
 空良くんには伝えないように言っていたのに。

「クロタキさん、どうしたんですか」
 そう聞いたのはクロタキさんの体がぐっしょり濡れているのに気が付いたからだ。私の着ていたブラウスもじわりと湿ってきた。

「柊一くん、離れないか」
 宿谷さんの声で初めてすぐ隣りに宿谷さんがいることを思い出した。
 淡々としたその物言いはなんだか苛立っている。
 クロタキさんはゆっくりと体を離すと私の目を見つめた。

「何故勝手に出て行った」
 問い詰めるその言葉は厳しいのに、クロタキさんの声が湿っているせいで弱弱しく聞こえる。

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