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変人を好きになりました

第21章 初恋の相手

 クロタキさんがシャワーを浴びて出てくるのを待っている間、宿谷さんは何でもないように料理をし始めた。
 私も手伝いながた宿谷さんに色々と質問を浴びせかける。

「クロタキさんとお知り合いだったんですか?」
「そうだよ。高校の後輩でね」
 そりゃこれだけ頭の良い二人だ。優秀な高校に通っていたんだろう。

「古都さんの通っていた中学校のすぐ近くだよ。通学路がかぶっているくらいの」


 中学……通学路。

 私が記憶喪失になる前のもっと前の記憶。忘れることなんてできそうにない初恋。

「覚えてないかな。俺、古都さんに会ったことあるんだ」
「え……」

 そういえば、宿谷さんの歳だとぴったりとあてはまる気がする。
「宿谷さんはクロタキさんより二つ年上ですよね……」
「うん。そうだよ?」


 初恋の男の子。
 落ち着く雰囲気の優しい男の子。


 それってもしかして……。


「ああ、よかった。俺の服ぴったりだ」

 宿谷さんの声が向けられた方を見るとタオルを頭にかぶったクロタキさんがいた。
 料理をしている私たちを目を細めて見た後に、ダイニングチェアに腰掛けた。

「古都さん」
 呼ばれて返事をしようかと思ったけれど、クロタキさんを見ると返事が欲しいわけじゃないみたいだ。

 来い、ってことか。
 まるでペットでも呼んでるみたいな言い草に私は不思議と嫌な感情を抱かなかった。むしろ嬉しい……と考えた頭をぶんぶん振る。

 私がクロタキさんの前までくると、座るように指示されて素直に従う。

「……」
 かけていた私の眼鏡をすんなり外して、私の右目を観察する。息が掛かるほど近くに綺麗な顔を近づけられてこっちは目どころじゃないっていうのにクロタキさんは純粋に私の目を心配している。

 なんだ。
 やっぱり、私が心配だったんじゃなくて、私の目が心配だったんじゃない。

 一気に落胆してしまった。

 しょうがないじゃない。クロタキさんが私を気にする必要なんてこの右目しかないに決まってるのに。

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