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変人を好きになりました

第21章 初恋の相手

 こくりと頷かれたその顔に両手を伸ばした。赤く染まる頬に触れると子犬みたいな目をした黒滝さんがいた。

「ごめんなさい。そんなこと考えもせずに沢山酷いこと言っちゃって」
 黒滝さんの頬を指で撫でる。顔に張り付いた薄い皮が滑らかに滑る。
 私の指が触れた場所がさらに赤みを帯びて、黒滝さんが息を止めた。こんなに綺麗な顔の人を前にしているのに、黒滝さんがあまりに緊張しているのが分かるせいで私には余裕が生まれる。
 可愛いな、と思った。

「それに、ありがとうございます」
 そういい終わると我慢しきれなくなって黒滝さんに抱きついた。
 しばらくしてぎこちなく抱きしめかえされた。

 私は記憶が戻ってから考えていた疑問を口にする。
「私って黒滝さんと初めて会ったのはいつなんですか?」
 黒滝さんの体がびくっと反応して、私から離れた。私に背を向けてしまった。
 怒ってる?

「……すまない」
「え?」

 何に対して謝っているんだろう。黒滝さんの話によると高校生の時に好きになった人と最近再会したとか。
 再会してからの話はどう考えても私のことを言っているようにしか思えない。恥ずかしいけれど。
 それなら、私はだいぶ前から黒滝さんと知り合っていたことになるのだけど、私にそんな記憶はない。

「何故あんなことまで言ったんだ」
「黒滝さん?」
 独り言のように呟かれた声はひどう後悔していた。何のことだろう。
 私は心配になって黒滝さんのシャツを引っ張ってこっちに向かせた。くるりと顔を見せた黒滝さんは両手で顔を覆っていた。

「つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。ストーカー規制法にひっかかる。それだけじゃない、個人情報保護にもおおいにひっかかる」 
 顔を覆う指の隙間からくぐもった声が漏れ聞こえる。

 ストーカー。個人情報。

「もしかして本当にずっと私のことを見てたんですか?」
「……ああ」
 黒滝さんが私をずっと。

「ちょっと、待って下さい。いつから私のことを?」
「前にも話したけれど、古都さんが中学生の時に会ってからずっとだ」
「私が中学生の時に、会ったんですか?」
「会った。一緒に登下校も時々していたし、色々話した」

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