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変人を好きになりました

第21章 初恋の相手

 記憶を必死に手繰り寄せる。さっき帰ってきたここ最近の記憶のさらに前の方まで探す。
 私が中学生の時に一緒に通学路を一緒にしていた男の子なんて一人しかいない。けれど、その人と黒滝さんの年齢は合わない。


 待って。
 私はあの少年に年齢を聞いたことがあっただろうか。黒滝さんは今26歳。私は22歳。4歳違う。
 私が中学2年生の時にあった彼が黒滝さんだったとしたら彼は高校3年生。おかしくはない。
 あれ?
 黒滝さんは私と4つしか違わないのに、どうして大学院まで卒業してさらに4年間も研究所で働いているの? 計算が合わない。

「古都さんは本当に数字が苦手だな」

 顔を上げるとそこにはいつもの冷静な黒滝さんがもどってきていた。また頭の中を覗かれたみたいだ。
「えっと……あれ。4つで、でも大学院は4年で、それから4年働いて8年。え? あれ? だって22歳で大学卒業してから8年だったら30歳?」
「違う。大学院も大学もそれぞれ2年で卒業した」


 は?
 ……はっ!!


「じゃあ、あ、あの……あの時の男の子は黒滝さんっ!?」
「あの時? 覚えているのか?」
「嘘っ」
 頭がくらくらする。どうしよう。嘘。

 まさか、黒滝さんが私の初恋の相手だったなんて……どこのおとぎ話なんだ。

「脳に酸素が十分に供給されていない。大きく息を吸って、吐くんだ」
 私の肩を掴んで言うから、大人しく従う。深い呼吸を繰り返しているとだんだん頭がすっきりしてきた。



「えーーーー!」
 すっきりした途端、真実が見えて驚きで絶叫をする。
 こんな時に女の子らしく『きゃー』と言えない自分が恥ずかしかったけれど、そんなこと気にしてられない。
 黒滝さんは露骨に眉をしかめてあたふたする私を見つめている。

「古都さんの行動は理解し難い。どうしたんだ」
「わ、私の初恋の相手……黒滝さんです」
 空気を一生懸命、吸い込みながら言うと黒滝さんが目を丸くした。切れ長の目が丸くなると顔の印象が変わる。
「それは蒼さんじゃなかったのか」
「黒滝さんです! 絶対!」

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