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変人を好きになりました

第4章 変人の恋人

「それで、柊一は昨日から帰ってきてないんだ?」
「うん」
 空良さんは頬を膨らませながら何度か浅く頷いた。なんだか嬉しそう。


 朝早くに空良さんが引っ越し業者のお兄さんたちを引き連れてやってきてから、ずっと応接間で喋っていたから自然と敬語を使わなくなっていた。
「柊一の仕事は一番大変だからね」
「そうなんですか?」
「うん。各研究所で投げ出された難しいものが柊一の所へ回されるんだ」
 想像通り。

「じゃあ黒滝さんは万能じゃないといけないってこと? 各分野のエキスパートが投げ出したものをどうやって解決するの?」
「あ、ううん。言い方がまずかったね。各研究所が柊一の助けを要請するって言ったほうがよかったね。その都度、柊一を中心としたチームが組まれて研究に取り組むんだ。詳しい内容を教えてあげられないから説明しずらいな……」

 なんとなく分かった私は悩みだす空良さんを制した。

「例えば、天文学が関係する依頼なら空良さんたちがそのチームのメンバーになるってことでしょ」
「うんうん」

 小さいドット柄のカッターシャツに赤いニットカーディガンを羽織っている空良さんは女の子みたいに可愛いのに妙に色気がある。
 口を尖らせて上目使いで頷かれたら思わず抱きしめたくなってしまう。
 犬みたいで。

「でも、夜に急に呼び出すなんていくら国のお偉いさんでも酷すぎる」
「うん……」
 変に歯切れの悪い返事をする空良さんに私は首を傾げた。
「空良さん?」
 空良さんは袖口に手をひっこめて考えるように顎を掻いた。
「夜に仕事がくるって聞いたことないけどなあ……。あ、それより古都さん」
「え?」

 急に身体を引き寄せられて囁かれた。

「今時珍しく貞操を守ってるって本当?」

 それだけ低い声で言うとすぐに身体が離れた。
 悪戯な笑顔。
 私は固まって、なんの言葉も返せずにただ真っ赤に染まる。

「本当なんだ。可愛いなあ」

 黒滝さんのせいだ。誰にも話したことがないのに、こんなこと異性に知られるなんて……しかも、今から住人になる人に。
「もお! さっさと部屋の整理してください。私は夕食の買い出しに行ってきます」
 財布だけを掴むとにこにこと笑っている空良さんを残して家を出た。

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