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変人を好きになりました

第21章 初恋の相手

 そういえば、こんな雰囲気だった。今のように変人だとは思っていなかったけれど、一緒にいて落ち着く。優しい雰囲気はどこに行ったのだろう。でも、黒滝さんが初恋の相手かもしれないと思ったら靄がかかっていた少年の顔が浮かび上がってきた。肌の白い男の子だった、全体的にほっそりした体で日本人離れしたスタイルなのに、目だけはすごく日本人のそれでそこが独特の印象を与えていた。

 どうしよう。
 私、ずっと初恋の人と一緒にいたんだ。
 どうして気付かなかったんだろう。

「本当か」
 こくこくと頷く。
 黒滝さんが口を開けたまま私の顔を穴があくくらい見つめる。

 心臓がばくばくするのをどうしようかと考えていると黒滝さんに抱きかかえられた。足が宙に浮く。
 結婚式場でもされたお姫様抱っこだ。

「えっ? わっ」
「そんなに僕の印象は薄かったのか」

 むっつりした顔の黒滝さん。今日は本当にいろんな表情をする。
 ああ、奈緒さんや空良くんにもこの顔を見せてあげたいな。きっと顎が外れるくらい驚くんだろうな。

「違うの。私、なんとなくの雰囲気しか覚えてなくて。好きっていう気持ちの方が大きすぎて他のことは全然覚えてなかったみたい」
 黒滝さんは私を抱きかかえたままどこに向かうでもなくじっと上から私の顔を見つめている。

「古都さん」
 真剣な表情で呼ばれて慌てて返事をした。
「はい」
「嬉しいときはなんて言えばいいんだろう」
 なんでそんなこと真顔で聞くんだ。変なギャップが面白くってうっかり笑ってしまった。

 黒滝さんの顔がさらに険しくなる。
「笑えばいいんですよ」
「そうか」

 そう言うと黒滝さんが本当に笑った。優しい、優しい笑顔だ。
 本当に幸せなんだと分かるような笑顔。
 誰もこんな笑顔には敵わない。そう思うのは私が黒滝さんに首ったけだからかもしれないけれど、それでもいい。私にとっての1番ならそれでいいと思った。

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