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変人を好きになりました

第22章 犯人探し

「そうかな。だって、柊一すごい量の辞書を買い占めてきただろう。それでマーカーとか引いちゃって、付箋までつけて……10冊以上の辞書で何調べてるのかなって不思議に思ってさ、悪いとは思ったんだけど見させてもらったよ」

 そこまで言うと柊一の顔がみるみるうちに夕日色に染まった。
 口を開けて空気を求めるように小さく動かしている。

 まじかよ。
 この男、本当に黒滝柊一か?

「いや。それは……」
 口ごもるなんてありえない。
 思わずポケットに入っている携帯で救急車を呼びたい衝動に駆られた。

「なんかの研究してるの?」
 無邪気を装って聞く。こんなに焦っている柊一を見るのは初めてで、優位に立てたような気分を味わう。これは満喫しなくては。救急車なんて呼んでる暇はない。

「……いや。気になる言葉があって。調べていた」
「ふーん。恋とか愛とか? 失恋も両想いなんかも調べてたよね」
 俺の顔は今これでもかってくらいににやけてると思う。

 もちろん柊一が古都さんのに対する感情を辞書で引いていたのは分かっているけれど、ライバルとしてイラついたりはできない。こんな純粋な奴にそんな邪念なんて抱けない。
 男の俺からしたっていい奴だと思ってしまう。
 古都さんのことを幸せにできるのはこの男しかいないのも事実だし。

 古都さんは記憶が無くなっても柊一に惹かれているようだった。何度やり直したって古都さんは柊一を選ぶんだろう。お目が高いじゃないか。
 最初から俺の出る幕なんてなかったってか。

「……」
 柊一は黙って床を睨んでいる。拗ねた子供みたいな顔に俺はとうとう吹き出してしまった。
「もしかして、柊一。お前、古都さんに対する気持ちが何か気が付いてなかったのかよ」

 柊一が短く低く唸った。
 図星かよ。どんなけ鈍いんだ。
「だから辞書を引いて、自分の気持ち当てはめようとしてたのか?」
 小学生のガキでもそんなことしねえんじゃないかと思う。
「好きってことは分かってたのに、それがどういう意味か分からなかったってこと?」
 俺がいくつか質問をすると柊一はまとめてひとつ頷いた。頬が赤く染まっている。少し可愛いと思ってしまった自分を拳で殴ってやりたい。

「特定の異性を強く慕うこと。切なくなるほど好きになること。また、その気持ち。が、恋だそうだ。空良もか?」

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