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変人を好きになりました

第22章 犯人探し

 古都に頼まれて居場所諸々の情報は一切言っていなかったのにそこはさすが柊一だ。
 俺の様子から察して、それから古都に近付きそうな人物を片っ端から調べたんだろう。まさか古都に怪我を負わせて、しかも柊一の偽の元婚約者の兄が古都に近付いているなんて思いもしなかっただろう。それはいくら柊一でも苦労する。それでも、発見できたのがやっぱり現代版シャーロックホームズと呼ばれるだけある。

「だいたい二人を見てたら両想いだなんて簡単に分かるさ」
「本当か?」
「うん。古都だってもう俺と会ったときには柊一のことしか見てなかったし、柊一だってずっと前から古都さんを見てたしね。気付いてないのは二人だけだと思うよ」

 俺は腕を天井に向かって伸ばした。両腕が伸びて清々しい気持ちになった。
「空良はすごいな。僕よりよっぽど探偵に向いている」
「ばーか」

 お前みたいな頭脳はねえよ。と言いたいけれど、なんか悔しいからやめた。柊一は頭もいいし、勘も働くのに古都に関しては驚くほど鈍感だ。たぶん客観的に見ることができなくなっているんだろう。
 逆に、俺は勘はいいけれど、膨大な知識を詰め込めてフル回転できる頭を持っていない。偏った知識しかない。

 馬鹿と言われたことが気に食わないのか、柊一は眉根を寄せてみせた。
「空良」
「ん?」
 見れば真剣な顔をしている。
「誰に頼まれた」
 誰に。頼まれた。
「何が」
「古都さんについてきたのも全て計画か?」

 ははっと短い乾いた笑い声がした。自分の口からその音が出ていることに驚く。
 悲しくて呆れると人間ってものは笑ってしまうらしい。
「空良、お前!」
 柊一は何を勘違いしたか俺の胸ぐらを掴んだ。柊一の高い身長のせいで俺の体が少し浮き上がる。

 抵抗をする気も起きないので、両手をぶらりとさせてされるがままにしておいた。
「宿谷里香に頼まれたのか? 金か」
「金……ねえ」
 そんなもの欲しけりゃ研究者になんてなってねえだろ。なんでだよ。
 なんで、俺を疑う。
 俺はお前を憎みはしろ良い友達だと思ってた。実際のところ、他の友人よりも信頼していた。友達として好きだったのに。

「なんで……」
 なんで俺を疑うのか聞こうとして柊一の顔を見たら、違う疑問が生じた。
 こんな顔、俺に見せるなんて初めてだ。
 今にも泣き出しそうな顔。

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