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変人を好きになりました

第22章 犯人探し

 こんな顔をするくらい柊一も少なからず俺のこと信頼してくれていたのだと分かって俺は柊一の手を払った。
 さして力も込めていなかったのに、柊一の腕は簡単に離れた。

「俺の知る限りお前が間違いをしたことはなかったのに。柊一も血の通った人間だったんだな。俺は誰にも何も頼まれていないし、あの写真を撮ったと疑ってんならそれは完全なお前の勘違いだ。確かに俺が何もしていない証拠なんてないから信じろなんて言えないけどな」

「……」
 柊一は黙ったまま俺のことを見つめる。
 焦点が定まらないのか、いつも落ち着いている瞳が小刻みに揺れて俺を観察している。

「いい加減にしろよ。どれだけ友達やってると思ってんだ! それとも俺だけかよ……。そう思ってたのは」
 戸惑っているような情けない友人を見て居られなくなって声を荒げてしまう。どうしようもなく悲しかった。
 柊一は端正な顔を歪ませてから一気に力を抜いた。

「……すまない。許してくれ」
 力なく笑ってみせたら、柊一が頭を下げた。
「謝んなって」
 俺が言うと柊一は顔を上げた。
「どうにかしてた。空良が嘘を吐いたらいつもは喋った後に口角挙筋に力が入るけど、今はそれが全く見受けられなかった」

 へえ。初耳だ。
 そんな癖があったなんて。
 柊一は人の表情筋をよく観察する。0.25秒を下回る感覚で現れる微表情を瞬時に見抜き洞察、推理をくりかえすことでその人の今の心理を読みとくことができるらしい。
 俺が真似しようと思っても無理な芸当だ。

「信じてくれたならよかったよ。で、なんでこんな間抜けな勘違いを? 宿谷里香があの写真を業者かなんかに頼んで撮らせたんじゃないっての?」
 そういえば、あの女は古都をあんな目に合わせておきながらも父親の権力と金で目撃者や関係者を黙らせた。そのおかげでなんの事件にもならずに平和に暮らしている。
 まあ、心中は平和ではないだろうな。
 お気に入りの男が今までなら誰だって手に入っていたのに、柊一はそうはいかなかったんだ。歯ぎしりが聞こえてきそうだ。

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