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変人を好きになりました

第23章 共犯者の正体

「あら、古都ちゃんじゃない。テレビで見たわよ」
「おかえりなさい。今日は婚約者と一緒じゃないの?」

 近代的な大きな一枚ガラスの自動扉を抜けると一気に古い落ち着く香りに包まれる。
 本を両手に働く司書さんたちが私を見るなり目を輝かせて詰め寄ってきた。

「お久しぶりです」
 すごくお世話になった先輩たちはテレビで私と空良くんの婚約報道を見たんだろう。私が最近まで記憶喪失になっていたことも結婚式での騒動も全く知らない。
 空良くんと婚約したと世間は信じているんだと改めて実感した。
 もう別れてしまったのに、どうやって説明するんだろう。空良くんは何を考えているんだろう。
 今は下手に変な説明をしないほうがいい。

「あ、これ。お土産です。皆さんでどうぞ」
 お土産があってよかった。空良くんの話から離れてくれた。
「由佳はどこですか?」
「由佳ちゃんなら今は地下の書架にいるわ」

 木製の螺旋階段を下りる。
 宿谷さんが車で待っているからあまり長居はできない。
 離れた所でばさばさと本が何冊も落ちる音がした。 
 由佳が両手を宙に浮かせてこっちを見ているから私は小さく手を振った。由佳は目を見開いたまま動かない。口だけが形を変えて私の名前を呼んだ。

「古都」
「記憶戻ったの」
 私の言った言葉の意味を考えている様子の由佳に近付くと、しゃがみこんで落ちた本を拾う。
「置くよ」
 私は拾った本をラックに乗せた。
「古都、記憶が戻ったの?」
「うん。心配かけてごめんね」

 由佳が急に私を抱きしめた。
 何かあると昔から由佳は私を抱きしめる。それは姉のようで、私にもし姉がいたらこんな感じなんだろうなと嬉しかった。

「古都、大丈夫? 頭はもう痛くない? 目は?」
 さっきまで麻痺したように動かなかったのに、思い出したように質問を浴びせかける由佳にふっと笑いを漏らす。由佳の背中に手を添えてとんとんと撫でた。

「大丈夫だよ」
「よかった。私、古都があんな目に合って記憶喪失になったって聞いたとき本当に……本当に」

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