
変人を好きになりました
第25章 日時を定めて
『古都さん、話したいことがある』
携帯から聞こえてきた声はいつになく真剣で思わずこちらの応対も強張る。
「は、は……はい。なんでしょう」
喉が上手く空気を出せずに何度も『は』を連呼してしまって顔が赤く染まる。これが電話でよかった。
『直接話したい。明日の夜空いてるか?』
「空いてます」
『そうか。じゃあ、明日の夜7時にマンションまで迎えに行く』
黒滝さんの低くて落ち着いた声が耳に心地よく響いた。
「え? 迎えになんて来てもらえなくても大丈夫ですよ。家に帰ればいいんですよね」
そう言いながら黒滝さんが車を運転する姿を思い浮かべてしまった。
すごくかっこよさそうだ。
『いや。家じゃないんだ。夕飯を一緒にどうかと思って』
黒滝さんと外で夕食を?
どうしよう。緊張してしまうかもしれない。黒滝さんと二人きりで外出なんて……。
『とにかく明日の7時に』
「分かりました」
返事をするとすぐに電子音が鼓膜を揺らした。
そんなに早く切られると少し傷つく。要件しか伝えないのは黒滝さんらしいけれど、また明日、くらい言いたかった。
それより話ってなんだろう。
黒滝さんが夕食に誘ってくれるなんて嘘みたい。
「ああ、もう。どうしよう……どうしよ。ほんと」
思い出すのも恥ずかしいけれど、黒滝さんと雨の日に抱き合ったあの日から私はまだ一度も黒滝さんと二人きりになっていなかった。
秘書としての仕事を毎日していたし、週末は会社の同僚と出かけたり、社長の同伴として忙しく動き回っていた。
本当は機会を作ろうと思えば作れた。
けれど……。
母と父のお墓参りに行った帰りに人気の多い駅前で知らない人に声をかけられた。正確に言えば一方的に喋られた。
『あっ! 村井空良の婚約者。いつ結婚するの?』
軽いノリで言われたその言葉に私はぎくりとした。
世間の移り変わりは早いのだから、きっと忘れてくれているだろうなんて思おうとしていた自分が恥ずかしかった。
携帯から聞こえてきた声はいつになく真剣で思わずこちらの応対も強張る。
「は、は……はい。なんでしょう」
喉が上手く空気を出せずに何度も『は』を連呼してしまって顔が赤く染まる。これが電話でよかった。
『直接話したい。明日の夜空いてるか?』
「空いてます」
『そうか。じゃあ、明日の夜7時にマンションまで迎えに行く』
黒滝さんの低くて落ち着いた声が耳に心地よく響いた。
「え? 迎えになんて来てもらえなくても大丈夫ですよ。家に帰ればいいんですよね」
そう言いながら黒滝さんが車を運転する姿を思い浮かべてしまった。
すごくかっこよさそうだ。
『いや。家じゃないんだ。夕飯を一緒にどうかと思って』
黒滝さんと外で夕食を?
どうしよう。緊張してしまうかもしれない。黒滝さんと二人きりで外出なんて……。
『とにかく明日の7時に』
「分かりました」
返事をするとすぐに電子音が鼓膜を揺らした。
そんなに早く切られると少し傷つく。要件しか伝えないのは黒滝さんらしいけれど、また明日、くらい言いたかった。
それより話ってなんだろう。
黒滝さんが夕食に誘ってくれるなんて嘘みたい。
「ああ、もう。どうしよう……どうしよ。ほんと」
思い出すのも恥ずかしいけれど、黒滝さんと雨の日に抱き合ったあの日から私はまだ一度も黒滝さんと二人きりになっていなかった。
秘書としての仕事を毎日していたし、週末は会社の同僚と出かけたり、社長の同伴として忙しく動き回っていた。
本当は機会を作ろうと思えば作れた。
けれど……。
母と父のお墓参りに行った帰りに人気の多い駅前で知らない人に声をかけられた。正確に言えば一方的に喋られた。
『あっ! 村井空良の婚約者。いつ結婚するの?』
軽いノリで言われたその言葉に私はぎくりとした。
世間の移り変わりは早いのだから、きっと忘れてくれているだろうなんて思おうとしていた自分が恥ずかしかった。
