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変人を好きになりました

第25章 日時を定めて

 私はまだ空良くんの婚約者である必要があるのだろうか。
 婚約者ではないことを証明してからじゃないと黒滝さんには近づけない。
 変な噂が立ったり、週刊誌にあることないこと書かれる可能性が高いからだ。
 空良くんに相談しようとしたけれど、どう言えばいいのか分からなかった。空良くんの気持ちに応えることができなかったからなんだか気まずい。
 明日の夜か。
 思わずオッケーしちゃったけど、もし何かあったらどうしよう。
 考えれば考えるほど不安になってきて、携帯の通話ボタンを押した。

『もしもし。古都? どうしたの』
 聞こえてきたのは柔らかい空良くんの声。
「あ、空良くん。あのね」
 私の言葉の続きを待っているように空良くんは黙っている。
「私ってまだ空良くんの婚約者なのかな」

 馬鹿か。私は。
 そんなわけないと分かっているのに逃げ道を捜すようにそんなことを口にしてしまっていた。
 しばらく沈黙が続いた。
 空良くんがどんな顔をしているのか分からなくって唾を呑み込んだ。

『ああ』
 唐突に空良くんの声が漏れた。
『もしかして、そのせいで柊一と付き合わないの?』
「それは……」
 空良くんの勘はやっぱりすごいと思った。
『大丈夫だよ。ちゃんと手は打ってあるからさ』
「え?」
『でも、時間がかかることだから気になるならしばらくの間どこかで泳いでおいでよ』
「どういうこと?」
 泳ぐってなんだろう。頭の中に学校にあった狭いプールが思い浮かんだ。あまり好きな方じゃなかったな。
『3か月くらい経てば世間も騒がなくなると思うからさ、バカンスとしてどこかでぶらぶらしてきたらどうかなって』

「バカンス?」
 日本人にとって馴染みのないワードトップ3に入りそうな言葉。生まれてこのかたバカンスなんてとったことがない。

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