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変人を好きになりました

第25章 日時を定めて

「ハワイに行ったことは?」

 それまで会社で勧められた海外出張のことをいつ切り出そうかとやきもきしていた私は一変、嬉々として運ばれてきたミルフィーユにフォークを突き刺そうとした。その時に黒滝さんの声がさらりと言った。

「ハワイってあの? ハワイですか?」
「ハワイというのは複数あるものじゃない」

 そりゃそうだ。私が今日会社で言われたハワイのことしかない。
「ハワイにある研究所に呼ばれたんだ。古都さんにもついてきてほしい」
「へっ、は……はい。というか、私も」


 事の次第を話すと黒滝さんは怪訝そうな顔をした。宿谷さんと空良くんが何か企んでいるような気がしないこともない。
 とりあえず私たちはそれぞれ会社から、研究所からと急かされるように日本を出た。


 もう7月中旬に差し掛かっていた日本は例年よりも暑くて、なにも暑い場所からさらに暑い場所へ行かなくても……と今まで思っていたハワイの観光客と一緒に飛行機へ乗った。
 隣りには黒滝さん。
 11時間程度のフライトの間中、私たちはほとんど何も喋らなかった。何を話していいのか分からない。
 私には少し恥ずかしい気持ちがあった。黒滝さんはどうなのだろう。


 ハワイの気候は暑いものの空気がからりとしていて心地いい暑さだった。黒滝さんはさっさと私をホテルまで案内してくれた。
 あまりお目にかかることのできない黒滝さんのハーフパンツを履いた生脚を私は後ろからじっと見つめながら歩いた。ふいに黒滝さんが振り返ったから私が脚を見ているのがばれてしまった。
「何かついているか?」
「つ、ついてません」

 綺麗な脚を見ていたなんて言えるはずない。
「ようこそ。黒滝様。お待ちしておりました」
 黒滝さんに頭を深々と下げて前を歩き出した若い女性の後を歩く。さすがハワイ。ホテルにも日本人の従業員だらけだ。

 案内された部屋は驚くほど綺麗だった。
 寝室の大きなガラス窓から海が一望できる。しかも……キングサイズのベッドが部屋にひとつ。何食わぬ顔でソファに腰掛ける黒滝さんを私はあたふたしながら見た。

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