
変人を好きになりました
第25章 日時を定めて
せっかく新しく買ったリップグロスが黒滝さんの指にもっていかれた。
「今は何も言わないでくれ。その……理性をなくすのは人間としての一番大切なものを手放すようでいたたまれない。それに、今は昼間だしな」
「へ?」
なんのことを言っているのだろうと首を傾げるが、黒滝さんは気にする様子もなくさっさと部屋を出るようにと促した。
「古都さんは変な所が抜けている」
「抜けてる? それ、黒滝さんには言われたくない言葉ですね」
太陽がさんさんと降り注ぐビーチはホテル専用らしく宿泊客らしき数名しかいなかった。静かに波の押し寄せる音を聞きながら砂浜に二人で並んで座った。
体育座りをしながらぺったんこのビーチサンダルを脱ぐ。黄色とオレンジに塗られた爪がキラキラと輝いていた。
黒滝さんは半袖のシャツの袖をさらにまくって白い肌を晒している。
「僕には言われたくないとはどういう意味だ」
「そのままですよ」
黒滝さんとこんな言い合いをするのは随分久しぶりのような気がして、それでも懐かしい想いと愛しい想いとで嬉しくなる。
「僕は抜けてたりしない」
「抜けてる人はそう言うんじゃないでしょうか」
黒滝さんに向かって舌を出す。黒滝さんはあからさまに眉間に皺を寄せて私の頬をつねった。
「いたっ」
「なんでこんなに柔らかいんだ?」
そして、何気にすごく失礼なことを言ってのける。仕返しにと手を精一杯伸ばして黒滝さんの頬をひっぱってみた。
……が、引っ張ることはおろか、つまむことさえもできない。皮がはりついている。
「うわっ、なんでつまめないんですか?」
「さあ」
黒滝さんは私の頬をつまんだり、指で押してみたりして完全に玩具にしている。
「気持ちいいな」
どういうつもりで黒滝さんが言ったのか分からないけれど、そんなこと言われたら顔が赤くなるのは普通で……。
「く、黒滝さんの馬鹿」と口走ってしまった。
黒滝さんは心外だと言いだしそうなくらい不服な顔をして私の左右の頬をひっぱった。
「むーーーーーっ」
声が出せなくなり、私は必死に変な声で応戦するも黒滝さんは涼しい瞳で私を面白そうに見るだけだ。最近黒滝さんはよく微笑むようになった。
嬉しいけれど、その笑顔を他の人に向けられることを想像しては胸がざわつくのを止めることができない。自分の独占欲の強さに鳥肌が立つ。
「今は何も言わないでくれ。その……理性をなくすのは人間としての一番大切なものを手放すようでいたたまれない。それに、今は昼間だしな」
「へ?」
なんのことを言っているのだろうと首を傾げるが、黒滝さんは気にする様子もなくさっさと部屋を出るようにと促した。
「古都さんは変な所が抜けている」
「抜けてる? それ、黒滝さんには言われたくない言葉ですね」
太陽がさんさんと降り注ぐビーチはホテル専用らしく宿泊客らしき数名しかいなかった。静かに波の押し寄せる音を聞きながら砂浜に二人で並んで座った。
体育座りをしながらぺったんこのビーチサンダルを脱ぐ。黄色とオレンジに塗られた爪がキラキラと輝いていた。
黒滝さんは半袖のシャツの袖をさらにまくって白い肌を晒している。
「僕には言われたくないとはどういう意味だ」
「そのままですよ」
黒滝さんとこんな言い合いをするのは随分久しぶりのような気がして、それでも懐かしい想いと愛しい想いとで嬉しくなる。
「僕は抜けてたりしない」
「抜けてる人はそう言うんじゃないでしょうか」
黒滝さんに向かって舌を出す。黒滝さんはあからさまに眉間に皺を寄せて私の頬をつねった。
「いたっ」
「なんでこんなに柔らかいんだ?」
そして、何気にすごく失礼なことを言ってのける。仕返しにと手を精一杯伸ばして黒滝さんの頬をひっぱってみた。
……が、引っ張ることはおろか、つまむことさえもできない。皮がはりついている。
「うわっ、なんでつまめないんですか?」
「さあ」
黒滝さんは私の頬をつまんだり、指で押してみたりして完全に玩具にしている。
「気持ちいいな」
どういうつもりで黒滝さんが言ったのか分からないけれど、そんなこと言われたら顔が赤くなるのは普通で……。
「く、黒滝さんの馬鹿」と口走ってしまった。
黒滝さんは心外だと言いだしそうなくらい不服な顔をして私の左右の頬をひっぱった。
「むーーーーーっ」
声が出せなくなり、私は必死に変な声で応戦するも黒滝さんは涼しい瞳で私を面白そうに見るだけだ。最近黒滝さんはよく微笑むようになった。
嬉しいけれど、その笑顔を他の人に向けられることを想像しては胸がざわつくのを止めることができない。自分の独占欲の強さに鳥肌が立つ。
