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変人を好きになりました

第25章 日時を定めて

 私は黒滝さんの手を払いのけてビーチの傍にあった恐ろしいほどカラフルなかき氷を買いに行った。


「古都さん、これはあきらかに有害な成分が含まれている。たとえば、この青色は」
「あー、もういいです。黙って食べて下さい。冷たければなんでも美味しいんですから」
「それは乱暴な言いようだな。古都さんは冷たいカレーライスを美味しいと感じるか? 冷えたカルボナーラもピザも美味しいのか?」
 ああ言えばこう言う。まさにその言葉が似合う。いちいち相手にしていたら日が暮れる。私は適当にふんふん頷いて小さなスプーンで氷を口に運ぶ。

 ハワイの人口25%は日系人。だから、海外ながら日本人向けの食文化はおろか普通に日本語で生活ができてしまうのはここ、ハワイだけだろう。英語ができる私がなぜハワイに派遣されたのか最初は不思議に思ったが、何か裏があるのだろう。黒滝さんも同時期にハワイになんておかしすぎる。

「そうだな。きっと空良が研究所所長に何か言ったんだろう。蒼さんと空良で話し合ったんじゃないか」
「だから、また人の頭の中を勝手に……」
「覗いたんじゃない。顔から全て分かるだけだ。とにかく、二人のことは気にせず楽しめばいい。ゆっくりするいい機会だ」

 空良くんなりの優しさなのだろう。偽の婚約者として私を使ったから、婚約者としての私のイメージが忘れ去れるまでこうして日本の外に出してくれた。
 空良くんは大丈夫なのだろうか。少し考えて大丈夫だろうという結論に至る。
 ファンの立場からすれば婚約者がいなくなったんだから、むしろ嬉しいだろう。でも、また空良くんのファンが押し寄せてきたら? 黒滝さんみたいに研究所を追い出されたりするのだろうか。

「余計なことを考えるな」
 黒滝さんの大きな手が頭に乗った。暑いのに気持ちいい。
「はい」
「それと、その敬語をどうにかしてくれ」
「え? でも、黒滝さんは年上だし……」
「まだそんなこと言うのか」
 黒滝さんが大きなため息を吐き出した。

「だって……」
「古都さんは、まだ僕と距離を置きたがるのか。空良とはもっと仲良く喋っていたのに?」
 あっ、と声が漏れそうになった。黒滝さんが妬いているのが分かったからだ。
「分かりました」
「やり直し」
「わ、分かった」
「うん」

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