
変人を好きになりました
第5章 世界一のクッキー
階段を下りてくるその声に顔をあげると黒滝さんが愛ちゃんに向かって微笑んでいた。
あんなに優しく笑うんだ……。
愛ちゃんも顔をあげて黒滝さんを見つめている。
「それに君は十分可愛い。きっと幸せになるよ」
黒滝さんは応接間まで下りてくると、愛ちゃんの頭を優しく撫でた。
「う……。ありが、とございます」
愛ちゃんがゆっくりと嗚咽をこらえながら喋った。
本当に小学生なのかと疑いたくなるほど優しく、大人で、礼儀正しい。
「柊一さん、私クッキーは苦手だからって断ったら急に泣いちゃって」
「は?」
空良さんがすごくすごく低く唸る。
私なんか驚きすぎて声が出せない。
もう、これ以上子供たちの前でこんな人の醜態を晒したくない。こんな人間がいるだなんてこの真っ白な子たちの心に少しでも残したくない。
「みんな、空良にいのお部屋で遊ぼう。ほら、愛ちゃんも。ね?」
空良さんに目で合図すると快く頷いてくれた。
「おっ。いいねー。お兄ちゃんがお星さまのこと教えてあげるよ。愛ちゃん、軽いなー」
私が愛ちゃんを抱きしめていた腕を緩めると、空良さんが愛ちゃんをひょいっと自分の肩に乗せた。
急に肩車をされた愛ちゃんは少し驚いたようで、涙が止まった。
「うん。お星さま、好き」
照れたように愛ちゃんが言うと健太くんたちも口ぐちに好きーと言う。
「いくら黒滝さんの恋人でも、金輪際ここへは出入りしないでください」
子供たちが階段をのぼって行ったのを確認してから、黒滝さんと里香さんの横を通るときにふたりに向かって言った。
目も見ず、真正面を向いたままで言い放った言葉は思いのほか冷たくて、自分でも驚いた。
「ごめんなさい。クッキー食べてあげればよかったのに……本当にごめんなさい」
急に声が甘ったるくなって、媚びるように鼻につく喋り方をし始める。
「彼女は素直で、思ったことをすぐ口にしてしまう。今日の所は許してくれないか」
黒滝さんがこんな人を庇うなんて……。馬鹿みたいだ。黒滝さんも、黒滝さんを想っていた自分も。
私の心はもう決まっていた。子供たちを傷つけた人を庇うような人をここの住人になんてしたくない。
あんなに優しく笑うんだ……。
愛ちゃんも顔をあげて黒滝さんを見つめている。
「それに君は十分可愛い。きっと幸せになるよ」
黒滝さんは応接間まで下りてくると、愛ちゃんの頭を優しく撫でた。
「う……。ありが、とございます」
愛ちゃんがゆっくりと嗚咽をこらえながら喋った。
本当に小学生なのかと疑いたくなるほど優しく、大人で、礼儀正しい。
「柊一さん、私クッキーは苦手だからって断ったら急に泣いちゃって」
「は?」
空良さんがすごくすごく低く唸る。
私なんか驚きすぎて声が出せない。
もう、これ以上子供たちの前でこんな人の醜態を晒したくない。こんな人間がいるだなんてこの真っ白な子たちの心に少しでも残したくない。
「みんな、空良にいのお部屋で遊ぼう。ほら、愛ちゃんも。ね?」
空良さんに目で合図すると快く頷いてくれた。
「おっ。いいねー。お兄ちゃんがお星さまのこと教えてあげるよ。愛ちゃん、軽いなー」
私が愛ちゃんを抱きしめていた腕を緩めると、空良さんが愛ちゃんをひょいっと自分の肩に乗せた。
急に肩車をされた愛ちゃんは少し驚いたようで、涙が止まった。
「うん。お星さま、好き」
照れたように愛ちゃんが言うと健太くんたちも口ぐちに好きーと言う。
「いくら黒滝さんの恋人でも、金輪際ここへは出入りしないでください」
子供たちが階段をのぼって行ったのを確認してから、黒滝さんと里香さんの横を通るときにふたりに向かって言った。
目も見ず、真正面を向いたままで言い放った言葉は思いのほか冷たくて、自分でも驚いた。
「ごめんなさい。クッキー食べてあげればよかったのに……本当にごめんなさい」
急に声が甘ったるくなって、媚びるように鼻につく喋り方をし始める。
「彼女は素直で、思ったことをすぐ口にしてしまう。今日の所は許してくれないか」
黒滝さんがこんな人を庇うなんて……。馬鹿みたいだ。黒滝さんも、黒滝さんを想っていた自分も。
私の心はもう決まっていた。子供たちを傷つけた人を庇うような人をここの住人になんてしたくない。
