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変人を好きになりました

第6章 行き交う想い

 黒滝さんには恋人がいて、私の淡い想いも砕け散った。
 うじうじ悩むのも、ねちねち文句を言うのも私の性に合わない。

 その間に、空良さんは空良くんと呼ぶに至り、空良くんは私のことを古都と呼び捨てすることになった。
 ふたりきりで部屋にいると、不思議な気分になる。

「今だけだよ」
「それでも、すごいよ。見て、ここなんて空良くんのファンにアンケートとってる。今まで天文に興味のない女の子も空良くんがきっかけで勉強し始めたりしてるんだって」

 空良くんが悩んでいたらしい論文は瞬く間に世界中で有名になり、来週にはロンドンに行って授賞式に出席するらしい。
 正直こんなにすごい人とは思っていなくて、空良くんがこんな家にいるのが恐ろしい。
 マスコミに気付かれないようにと研究所の人も気を遣って、手を回してくれている。

「真剣に勉強してくれるんなら、そりゃ嬉しいけど……」
 空良くんの表情はそれでも浮かない。
「授賞式もあるし、もっと喜ばなきゃだめだよ」

 受賞が決まってからも空良くんは全く喜ぶ様子を見せなかった。
 それどころか、表情が固くなった気がする。

「古都、一緒にロンドンに来てくれないか」
 空良さんが眉間に皺を寄せて、すごく真面目な顔をしている。珍しい。
「え? え……っと。どうして?」
「俺と婚約してほしい」
 ひとつ息を置いて告げられた言葉を理解するのに何分か要した。



「え?」


「分かってる。古都は俺のこと好きなんかじゃないって。ただ、こうやってメディアに書かれることでファンができてすごく……その、研究がしにくいんだ。研究所の前には女の子たちが群がるし、ファンレターとか、プレゼントとか研究所に送ってこられて所長も困ってるんだ。このままじゃ、俺も研究所から追い出されるのも時間の問題だよ。頼む。一緒にロンドンへ行って婚約者のフリをしてくれないかな」

 研究所から追い出される?
 もしかして、黒滝さんもそれが原因だったの?
 そんな小さな疑問が生まれる。
 少しはテレビを見ておけばよかった。
 古い本しか読まないのにも問題があるみたいだ。

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