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変人を好きになりました

第9章 たまご粥

「ゴホッ、ゴホ……ッ」

「どうしたのっ?」

 空良くんが急に喉を傷めるような大きな咳をした。
 白い手から落ちたじゃがいもが真っ白な床に鈍い音と共に着地して、控えめに転がる。
「んっ、なんでも……」
 空良くんが口元を押さえるけれど、全然大丈夫そうには見えない。

「ちょっと、待ってて!」
「古都……」
 苦しそうに呻く空良くんを床に座らせると、キッチンを出て人を探した。




「あれ、古都だ」

 豪華すぎる天蓋付きのベッドにひとり深い眠りに落ちていた男の子が目を覚ました。あどけない表情をして目の前にいる私を嬉しそうに見つめる。
「空良くん。気が付いた? まだ熱はあるみたいだから、安静にしてなさいってお医者さんが言ってたよ。あ、ほら。薬飲んで」

 体調が優れない上に多忙なスケジュールに追われ、ひどい風邪をこじらせてしまったらしい。
 私をロンドンンの街に連れ出したときも体調が悪かったに違いない。
 自分のことを差し置いて、私のことを心配してかまったせいで風邪で倒れてしまうなんて……。

「……ありがとう。今は何時?」

 空良くんが仰向けのまま窓に視線だけをやる。窓の外はまだ真っ暗だ。
「今は夜の2時よ。まだ倒れてから6時間しか経ってないわ。それに、研究所の人には連絡して今日から1週間のお仕事は全部キャンセルしてもらったよ」
 空良くんは一瞬目を見開いて私をじっと見つめた。茶色い瞳が猫のようだ。

「そう……。1週間も休みもらわなくても大丈夫なのに」
 そういいながら体を起こしたので、私は空良くんの口元に水のはいったコップを差し出して飲ませた。
 素直にごくごくと喉を鳴らして飲む。

 寝ている間に汗をだいぶかいていたから脱水症にならないかとひやひやしていたから、ここぞとばかりに飲ませた。


 最後に薬もきちんと飲ませると、空良くんが熱に浮かされた赤い顔で私に首を振った。
「古都に移るといけないから、部屋から出て」
「だめよ。私が看病するの」
「俺の風邪、古都のせいだと思ってるんだろ。そうだった違うから」
 何故だか冷たい空良くんの声。
「え?」


「移したくないんだ。頼むよ」

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