テキストサイズ

変人を好きになりました

第9章 たまご粥

 ベッドに潜り込んだ空良くんからくぐもって消え入りそうな声が聞こえてきた。



「違うよ。心配なの」
 確かに私のせいで風邪を悪化させたと思って申し訳ないとは感じているけれど、それが理由で看病をしようなんて思ってなんかない。
 体が弱ると人は弱気になったり、素の自分がでると言うけれど、これが本当の空良くんなのかもしれない。

「空良くん。ここにいさせて? 心配するのに理由なんて要らないでしょ」
 膨らんだ布団に手を添えて、一定のリズムで優しく撫でる。

「……」

 空良くんからは返事がないから、了承の返事だと勝手に受け取って私は空良くんの頭であろう膨らみを撫でた。
 こうして見ると空良くんの身体は本当に男なのかと疑いたくなるくらい華奢でか弱いように思えた。
 いつだって堂々としていて明るくて頼りになる空良くんがこんなに……儚い存在だった。


 もぞもぞと顔だけを布団からのぞかせた空良くんの瞳は熱のせいか赤く充血して潤っていた。
「こ、と……。じゃあ、ずっとここにいて。一緒にいて?」
 ねだることが恥ずかしいと思っているのか、俯きながら言う空良くんに私は大きく頷いた。
 空良くんの額に手を乗せると信じられないくらい熱くて、驚いたけれど私の手の平の体温を感じて気持ちよさそうにしている空良くんを見て私がしっかりしなくてはと思い優しく微笑んでみせる。

「一緒にいるね。安心して寝て」
「本当?」

「うん。もちろん」
 空良くんが口元を緩ませて目を閉じた。
「ありがと」
 夢の中へ導かれていっているのかうわ言のように繰り返し呟くその掠れた声に胸が締め付けられた。
 規則正しい寝息が響くのを確認してから私はそっと口にしてみた。


「早く元気になってね」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ