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変人を好きになりました

第9章 たまご粥

「たまごがゆ食べたい」


 昼過ぎに目を覚ました空良くんに何を食べたいか、何をしたいか聞くと嬉しそうに答えた。
「わかった。すぐに用意してくるから大人しく寝ててね」

 卵粥なら作り慣れてるし、すぐにできるからよかった。早速キッチンへ行こうとするところを空良くんの力のはいっていない手で止められた。

「古都が行っちゃうなら、やっぱりいらない」


 風邪をひいた空良くんはいつもの空良くん以上に甘えん坊だ。
 私の中の今まで眠っていた母性本能というものが姿を現そうとしている。

「わがまま言わないの。すぐに戻るから、ね?」
 少し熱が下がった空良くんは寝癖のついたふわふわの髪の毛をいじりながら小さく頷いた。




 いざ、キッチンに立ってみると日本食の食材のなさに驚愕した。
「あの、白だしとショウガないですか?」
「申し訳ありません。使い慣れていない食材は置いていなくて」
 シェフが帽子をとって深く頭を下げた。ブロンドの短髪が目に入った。
「謝らないでください。じゃあ、私買ってきてもいいですか?」
 口ごもるシェフの後ろから空良くんのマネージャーらしき男性が前に出てきた。
「古都さんに行かせるわけには行きません。わたくしが行って参ります」
「でも、日本の食材なんて見慣れていないから買いにくいんじゃないですか? お店の近くまで送っていただけるだけで十分ですから」

 何度か説得すると、渋々首を縦にふったマネージャーの車に乗り込んだ。運転手、ボディガード、マネージャーと私の4人の微妙な雰囲気が車内を満たす。

 いつの間にボディーガードが傍に来ていたのか分からないけれど、細身の長身を黒のスーツでかため、顔を隠すようにサングラスをしているその人からはピリピリとした警戒心がむき出しになっていた。

 真っ黒なリムジンは飛びぬけて目立つこもなく歴史と文化を感じさせる街並みを走った。

 いそがないと、空良くんが待ってる……。


「古都さん、本当にすまないのですが」
 今まで携帯で忙しなく誰かと話していたマネージャーが泣きそうな顔で私を見た。
「なんでしょう?」
「空良が仕事を休んだ関係で私が今すぐ会議に参加することになりました。王室関係者も出席する場なので、急がなくてはいけなくて……それで」

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