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変人を好きになりました

第10章 人魚姫

 何もかもが初めての私にはよく分からない。それでも、恋人が異性とふたりきりになったり親しくするのは良くないというのは理解している。

 私は頷いた。
 空良くんは満足げに笑ってふいに私の腕を掴んでベッドに引きずり込んだ。
 転ぶようにして空良くんの隣りに着地した。
「あと、寝るときは毎日俺の隣り。分かった?」
「えっ、でも……」
「そっか。風邪うつっちゃうか」
 そういって悲しそうに手を離す空良くんに私は急いで否定の意味を込めて首を振った。わかってやってると確信する。
「ううん。分かった。じゃあ、今日から空良くんの隣りで寝る」
 空良くんが悲しそうな顔をしているのを見るのは耐えがたい。

「やっぱり古都は優しすぎるよ……。そこが、大好きなんだけど」
 自分が分からない。
 空良くんが思っているような優しい女ではないことは確かなのに、どういって説明すればいいのか分からない。

 私は優しくない。優柔不断で弱虫で、本当は自分が一番大事なのかもしれない。
 自分が傷つかないために他人に優しくしてしまう。目の前にいる人が辛そうな顔をしていると、こっちまで辛くなる。もやもやする。だから、相手の苦しみを私がなんとかしようと思ってしまう。
 でも、それって優しいと言うの?
 だぶん言わない。

「古都は占星術って信じる? 星占いって言ったほうがいいかな」
 窓の外を眺めながらぼんやりと考えていると空良くんが唐突に聞いた。
 星占い。
 朝の番組で時々目にするあれだ。

「信じてないかな。だって星座で運勢がわかるなんて変だもん。12こしかない星座に全世界の人を当てはめて占うのって無理があると思うの」
 そう言いながら思い出した。中学生の時、気になる男の子がいた。その子は違う学校に通っていて、私は通学途中に偶然初めて会ったときに惹かれてしまっていた。好きとかそんな感情はなくてただただまた会いたいと願うだけの相手。
 その男の子に会いたい思いと共に目覚めた私は毎朝学校に行く前に星占いを見ていた。

 それが全く当たらない。
 私の星座が1位の時には男の子に会えず、最下位の12位だったときには男の子に会って、少し言葉を交わしたりなんかもできた。
 男の子が進学して会うことがなくなってからは私は星占いを見ることをやめた。

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