
変人を好きになりました
第10章 人魚姫
「日向さんといったかな。無理はしてないかね?」
「無理、ですか?」
そう聞き返しながらも私は無意識に手を握りしめていた。
岡さんの目尻が下がってこちらをじっと見据える。
「日向さんが好きなのは人としての村井くんかな。それとも天文学者としての村井くんかい?」
天文学者と聞いても正直いまいち空良くんと結びつかない。それほど空良くんは私の前では仕事のことを表に出さない。でも、星の話はよくする。それは私にとってキラキラした別の世界のように思えて楽しい。
でも、私が好きなのは優しくて温かい空良くんだ。
「私は……」
そう言いかけた私を遮るように岡さんは朗らかに笑った。
「いやいや。すまないね。意地悪な質問をしてしまった。日向さんは真っ直ぐなお嬢さんだね。村井くんが気に入るはずだ」
「いえ、そんな」
「村井くんが日向さんのことを本当に好きだというのは誰の目にも明らかだよ。それに見合うお嬢さんで安心した」
岡さんは勝手に話を進めていくから私は追いつこうとするのに必死で目を瞬かせる。
岡さんの隣りに立っていた長身の女性が腕時計に目をやり咳払いをした。
「わかったわかった。もう行かなくていけない時間らしい。村井くんによろしく伝えてもらえるかな」
「はい。しっかりお伝えします」
岡さんと一緒にいると私まで朗らかな気持ちになってくる。
去っていく岡さんが一度振り返った。
「最後にひとつ聞いていいかな」
「はい」
なんだろう。優しい眼差しから鋭い目つきになっている。何もかも見透かされてしまいそうな鋭い目……。
「村井くんのことを好いているかね?」
「……はい」
一瞬息が止まりそうになった。肯定するか否定するかなんて迷ってはいけないことなのに、どうしてか私の脳裏に浮かんだのは長身で嫌味なくらい顔の小さい男だった。
その残像を振り払うようにして私は頭を立てに振った。
岡さんは私の様子をじっと見つめる。その時間はきっと2秒か3秒くらいだったのだろうけど、私には長く感じた。
「無理、ですか?」
そう聞き返しながらも私は無意識に手を握りしめていた。
岡さんの目尻が下がってこちらをじっと見据える。
「日向さんが好きなのは人としての村井くんかな。それとも天文学者としての村井くんかい?」
天文学者と聞いても正直いまいち空良くんと結びつかない。それほど空良くんは私の前では仕事のことを表に出さない。でも、星の話はよくする。それは私にとってキラキラした別の世界のように思えて楽しい。
でも、私が好きなのは優しくて温かい空良くんだ。
「私は……」
そう言いかけた私を遮るように岡さんは朗らかに笑った。
「いやいや。すまないね。意地悪な質問をしてしまった。日向さんは真っ直ぐなお嬢さんだね。村井くんが気に入るはずだ」
「いえ、そんな」
「村井くんが日向さんのことを本当に好きだというのは誰の目にも明らかだよ。それに見合うお嬢さんで安心した」
岡さんは勝手に話を進めていくから私は追いつこうとするのに必死で目を瞬かせる。
岡さんの隣りに立っていた長身の女性が腕時計に目をやり咳払いをした。
「わかったわかった。もう行かなくていけない時間らしい。村井くんによろしく伝えてもらえるかな」
「はい。しっかりお伝えします」
岡さんと一緒にいると私まで朗らかな気持ちになってくる。
去っていく岡さんが一度振り返った。
「最後にひとつ聞いていいかな」
「はい」
なんだろう。優しい眼差しから鋭い目つきになっている。何もかも見透かされてしまいそうな鋭い目……。
「村井くんのことを好いているかね?」
「……はい」
一瞬息が止まりそうになった。肯定するか否定するかなんて迷ってはいけないことなのに、どうしてか私の脳裏に浮かんだのは長身で嫌味なくらい顔の小さい男だった。
その残像を振り払うようにして私は頭を立てに振った。
岡さんは私の様子をじっと見つめる。その時間はきっと2秒か3秒くらいだったのだろうけど、私には長く感じた。
