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変人を好きになりました

第10章 人魚姫

「うん」

 それなのに私の口から出てくる言葉はほとんど意味をなさない二文字。空良くんと一緒にいると感じるこの切ない気持ち、泣きたくなるような胸が痛くなるこの気持ちをなんと言えばいいのか私の語彙力では表現できない。でも、これを恋や愛だと思っても悪いことではない気がする。むしろ、そっちのほうが都合がいい、というか正直楽になると思う。

「本当に分かってる?」
「分かってるよ」
 体が離れて、空良くんの顔が見えた。拗ねたような照れたような空良くん独特の表情を顔に浮かべ、私を見ている。
 数秒見つめあってから、空良くんがふいに私の手をとって口を寄せた。ちゅっという軽やかな音と同時に手の甲に柔らかい感触。

 本物のお姫さまになったみたい。


「古都が欲しいよ」

 私の手をとったまま、まるでその手が国賓だとでも言うように優しく頬を寄せる。
「空良くん」
 私の恋愛経験があれば欲しいの意味が分かったのだろうか。
 はっきりとは分からないけれど、膜を張ったようにうっすら分かるのは空良くんの掠れた声のおかげだろう。

「綺麗」
 色っぽい視線でドレスを着た体を犯される。
 居心地が悪くなって身をよじると空良くんが微かに笑った。
「脱がすのもったいないな」
 そんなことを言いながら空良くんの手は後ろのチャックに伸びている。
 背中の肌が空良くんの指先に触れられて電気が走ったように背筋が震えた。
「可愛い」
 ジリジリと音を立てながら下げられていく感覚に私は焦って私の後ろに立っている空良くんのほうを振り返った。


「きゃっ」


 ほとんど下されていたらしいチャックと振り返った時の衝動でドレスがするりと体から抜け出てしまった。

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