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変人を好きになりました

第10章 人魚姫

 咄嗟にしゃがみ込んで自分の身体を腕で抱きしめる。


「……」
 空良くんは黙ったまま私と目線を合わせるようにして屈むと私の顎を撫でた。


「や……。見ないで」
「酷いなあ。俺は我慢してるのに、古都がこんな大胆なことしておいて見ないではないよ」
 スイッチが切り替わったような空良くんの表情にはっとする。
 男の人のこんな雰囲気を感じたのは初めてで、一気に不安が押し寄せてきた。
「違うの。空良くん、お願い……恥ずかしい」
 肌を男の人に見せるのは初めてだ。海に行くにも周りの子たちのような肌を過度に露出する水着なんて着たことがないから、下着姿を空良くんに晒している現在の状況をどうすることもできず、ただ自分をさらに強く抱きしめるしかない。

「どうして? 恋人なんだから、これからもっともっと恥ずかしいこと……するんだよ? それとも、古都は結婚するまでそういうコトはしない主義?」
「わかんない。考えたことないよ……」

 空良くんが私の顎をくいっと持ち上げた。
「だめだよ。考えなきゃ」

 空良くんの顔がどんどん近づいてきて、私は間近で見る空良くんの女の子も悔しがるくらい可愛い顔に目を瞬かせる。
 唇と唇が触れそうな距離で空良くんは止まった。相手の吐息を直に感じる距離。空良くんも私も少し息が荒いのが分かる。



「今から何するか分かる?」

 空良くんの茶色い瞳から目が離せない。私は首をかろうじて横に一度振った。
 嘘。本当は分かってるのに。

「教えてあげるよ」
 あと数センチ顔を動かせば触れてしまう。
 それなのに、空良くんは私の想像を裏切った。頬にひとつ唇を落とされた。

 それに続くように鼻の頭、瞼、額と顔中に何十もの口付けが降ってきた。
 自分を抱きしめていた腕の力が抜け出てだらりとだらしなく床に垂れた。腰も抜けて床に完全に座り込んでしまう。
 何回も響くリップノイズに頭がくらくらする。

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