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変人を好きになりました

第11章 純白のドレス

「空良くん、空良くんっ」

 私が駆け足で空良くんの書斎に駆け込むと、火星と地球の模型をくるくる回していた手を止めて私を見た。
「どうした?」

 嬉しそうに温かくそう聞く空良くん。彼の『どうした?』の言い方には癖があって、『どったん?』と聞こえなくもないが、そこがまた可愛くていい。

「じゃーん。これ見てっ」
 私は手にしていたとても綺麗とは言えない一冊の本を空良くんの顔の前に突き出した。
 空良くんはそれを見て目を丸くした。

「古都、それ……」
「リヴァプールにあった小さな古本屋さんで見つけたの。フランス語の原本よ」
「古都ーーーっ」

 勢いよく私に飛びついてきた空良くんの頬は紅潮していて、私の手からその本を奪い取ってから私をぎゅうっと抱きしめた。
 フランス人の作者が書いたこの本は絶版になってしまっていたから、もう入手するのを諦めようとしているらしいことを空良くんから聞いてから私はこの本をどうにかして手にいれようと探し回っていた。日本語に翻訳されたものなら沢山すぐに見つかったけれど、空良くんはあくまで原文であるフランス語で書かれたものを読みたいらしくて探すのに苦労した。
 興奮しているのか空良くんの私の身体に巻きつく腕にきりきりと締め付けられて痛い。

「ね? 本はなくならないの。一つの本が生まれたらそれは滅多なことがない限りなくならない」
 空良くんがほしがっていたこの本は、12星座に住む12人の男女の恋物語だ。
 この本をどこかで一度読んでから空良くんは星に興味が出たらしい。でも、その本はもうどこにもなくて、ずっと探しているにも関わらずどこの図書館にも書店にも古本屋にもおいていなかったらしい。
 今のネットワーク社会の技術を駆使して古書のデータベースを探して分かったのは、その本は星に魅せられた作者が趣味で執筆し、知り合いのつてでわずかな数出版したらしかった。

 見つからないのも無理はなかった。けれど、イギリスのある店にふらりと立ち寄って棚に無造作に収まっている本のタイトルを目でなぞっていると胸が弾むタイトルを発見した。
 よく思い出してみれば、空良くんがいつか話していた夢のような幻のような本のタイトルと一緒だった。

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