
変人を好きになりました
第11章 純白のドレス
結婚式か……。
裾が長いウエディングドレスを着た人の顔をまじまじと見ておやと思う。どこかで見た顔だ。
ベールに包まれ、女性らしい化粧を施されたその人は文句なく美しく完璧に微笑んでいるけれど、その笑顔を穏やかな気持ちで見れない自分がいることに気が付く。
有名な女優さんなのだろうか、その女性だけが記者会見のような舞台で受け答えしている。どうやら新作ウエディングドレスの発表だったらしい。
記者のマイクが彼女に向くと四方八方に笑顔を振りまいていた顔がさらにほころんだ。
「すごく似合っていらっしゃいますが、ご自身でウエディングドレスを着るご予定なんかはあるんですか?」
記者が悪戯っぽい声でそう聞くとその女性はベールを顔から払いのけて口を開いた。
「実はもうじき式を挙げる予定なんです」
周りにいた記者や関係者たちの間に大きなざわめきが広まった。
「お相手は?」
「優秀な研究者です」
「あ!」
思わず口から叫び声が漏れる。そうだ、あの時のような濃い化粧をしていないからすぐに気付かなかったけれど、間違いなくこの人は……。
「優秀な研究者と言いますと? 有名な方でしょうか?」
黒髪をきりっと後ろにひとつまとめた記者が食い下がる。里香さんは妖しい微笑みと共に答えた。
「ええ。もちろん、皆様ならよくご存じかと。黒滝柊一さんを」
ざわめきが一層強まった。
黒滝さんの名前が出ただけで記者たちの目が変わる。
そんなに有名だったのだ、と冷静に驚いてしまう。冷静に驚くなんて不思議な日本語だ。
それでも、頭が真っ白になったり怒りで沸騰しそうだなんてことにはならなかった。婚約して、式を挙げるらしいことはもう里香さんが言っていたから。
「どこでお知り合いに?」
「ご家族同士はもうご存知でしょうか?」
「彼のどういった所が好きになられたんですか?」
次々と飛んでくる質問を画面の中の完璧な女性は目を細めて吟味し、答えたい質問にだけ口を開いていく。
「いつ挙式されるご予定ですか?」
「来月の3日です。あ、言っちゃった。よかったかしら」
心配するような言葉とは裏腹に頬を緩ませながら口元にわざとらしく手を当てたその人。黒滝さんが夢中になってしまうのも分かるくらい美人で指先まで美しい。
