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変人を好きになりました

第2章 天文学者

 あの容姿だから女の人に言い寄られることもしょっちゅうだったけれど、一切相手にしていなかった。
 この家にも押しかけてくる女の人たちもいたが、冷たく追い返していた。
 その理由を聞くと『相手にする理由が分からない』なんて言われた。


 本当に変わり者だ。


「あー。もう!」
 頭を掻き毟るとソファから立ち上がった。
 図書館に行く時間だ。週に4日ほど私は図書館で働いている。唯一の気分転換で、私は気に入っていた。
 コートを羽織って、マフラーを首に巻きつけて手袋をつけて、人が大勢行きかう街を数分行った所に古風なつくりの立派な図書館がある。
 一歩中に足を踏み入れると本の香りに圧倒され、異世界に来たような気分に浸れた。
 同僚も皆本が好きだから、仕事終わりに最近読んだ本の感想を言い合ったりするのも楽しみのひとつだ。

「古都、天文学のほうの整理お願い」
「了解」
 短い髪の由佳がカウンターにいる私に耳打ちした。
 由佳はその見た目通りでボーイッシュでさばさばしていて、強い女性の代表のようで私の憧れでもあった。
 天文学の書籍や雑誌はあまり誰も借りる人がいない。
 だから、整理は楽なものだった。

 一冊一冊の本に手を伸ばす。その度に私の指には埃の膜が何層も蓄積されていく。
 手に薄い埃の膜が張り付いていく。そんなことすら私にとっては喜びだ。

 私はしゃがみこんで、一番下の段にある大きな本に手を伸ばすと、向こう側の棚の誰かも私と同じ位置、同じ格好で背中合わせの本を手にするところで思わず目が合ってしまった。

「あ」
 向こうにいる誰かが声を発した。
 まんまるい目がこちらをじっと見る。女の子のような綺麗な顔にくりっとした目が特徴のその人はよくここへ来ている人だった。
 可愛いな……羨ましい。
 と思い、なんとなくその顔を見つめてしまう。

「古都さん、ですよね」
「え、はい」
 今まで事務的なやり取り以外口をきいたことがなかったので、急に名前を呼ばれて驚く。
「そう呼ばれているのを聞いたことがあって。綺麗な名前ですね」
「ありがとうございます。あの」
「空良です」
 彼はそう言うとはにかんだ笑顔を見せた。可愛すぎて女の子だと錯覚してしまいそうになる。
「そ、ら?」
「はい。俺の名前です」

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