
変人を好きになりました
第11章 純白のドレス
「あ」
空良くんが私の覗いているページを見て声を上げた。
ざらざらとした灰色の紙に大きく出た白黒の黒滝さんの顔写真。手に試験管を持ち、真剣なまなざしでその試験管の中の液体を凝視している横顔はすごく絵になってモデルのようだ。
大きな見出しには『天才科学者またも快挙』と書かれていた。
雑誌の発行された日付は1か月前。土を調べるとか言っていたあの時のことだろうか。
あの時は今こんな所に空良くんと一緒にいるなんて想像もつかなかっただろう。永遠に変わらないことのように毎日を黒滝さんの世話をして過ごしていた。平凡で……平凡な毎日。幸せだったと思いかけて頭を振り切る。
「柊一ってよく週刊誌にも科学誌にも載るからさ、俺同僚として気になってチェックしちゃうんだ」
「黒滝さんって有名なの?」
私がそう聞くと空良くんは驚いたように目を見開いた。
「知らなかった? 俺なんかより全然知名度あるよ。ファンクラブができるくらいになっちゃって、研究所に迷惑かかるからってそれで柊一研究所から出て行ったんだ。ってあれ、こんなこと古都には話したくないんだけどな」
何も知らなかった……。
私に話してくれた空良くんは複雑な表情をして息を吐いた。
「どうして? 黒滝さんのこともう気にしてないから、大丈夫だよ」
笑顔を作ると空良くんは私をぎゅうっと抱きしめた。
「うん。よそ見なんてさせないから」
空良くんの腕の中で私は捉えられた鳥の気持ちが分かったような気がした。
