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変人を好きになりました

第11章 純白のドレス

 風邪をひいてから1週間が過ぎると空良くんは仕事に精を出した。古城ホテルに帰ってくるのは毎日夜遅く。たまに明け方近くになったりもするから私はまた空良くんが体調を崩さないか気が気ではなかった。



 そして、月が替わり黒滝さんの結婚式の2日前にやっと休みができた。

「古都、こっちなんてどうかな」

 明らかに結婚式には場違いな露出の多い黒いドレス。にやにやしながらそれを差し出して、私を試着室に押し込めようとする空良くんには悪意があるとしか思えない。
「さっきから、空良くん私で遊んでるでしょう。普通に選んでよ」
「えー。だって、せっかくだし、もっといろんな古都見ておきたいもん」
 空良くんは頬を膨らませてまたドレスを探しに行った。

 私はため息をひとつついてから試着室に戻る。



「古都ってそういうのも似合うんだ。っていうか、可愛い顔とそのセクシーな体のアンバランスさがいいよね」
「変態!」

 へへっと笑って空良くんが差し出したドレスは上品で可愛らしいものだった。やっと普通に選んでくれたんだと安心する。

「これで決定。ほら、もういいでしょ」

 つまんないーと駄々をこねる空良くんにでこぴんをしてからドレスを大量に持ち込んでくれたお店の人たちにお礼をして帰ってもらった。


「それより空良くん、最近どうしてすっごく忙しそうなの? 体大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。色々調べることがあってね。でも、もう終わったよ」
「何を調べてたの?」

 そう聞くと「内緒だよ」と悪戯っぽくウィンクされてしまった。


 仕事のことではないのかもしれないと女の勘が働いた。でも、結構頑固な空良くんのことだ。内緒なら内緒と教えてくれる可能性は低いというかないに等しい。
 私はあきらめて空良くんの茶色い猫みたいな髪をくしゃくしゃにしてやった。



 少し。ほんの少しだけ、とびきり綺麗な恰好で結婚式に出席したら黒滝さんが私のことを一瞬でも女と認識してくれそうな気がして空良くんが選んでくれたドレスに袖を通すのが楽しみだ。

 なにが気にしてないから大丈夫、なんだ。馬鹿みたいに気になるじゃないか。恋人を裏切っているような罪悪感が襲ってきた。

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