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変人を好きになりました

第11章 純白のドレス


 ふつふつふつ。


 体の内側から何かが煮える音が聞こえる。この音とは久しぶりの再会だ。

 最初にこの音が聞こえてきたのは保育園のお遊戯会前日のことだった。私はかぐや姫の劇の月からお迎えにいく侍女役をすることになっていたのに、かぐや姫の元へ求婚へ行く男の役をする男の子のやる気のなさを見ていたときだ。
 前日にそのふつふつがぷつりと途絶えたと思った瞬間、その煮えたぎるマグマのような液体は私の外側へ溢れ出していた。
 その男の子にぴしりとお説教まがいのことを言うなり、そんなんなら私があなたの役もやる、なんてすごい剣幕で言うもんだから男の子は泣きだしてお遊戯会前日に私の父は保育園へ呼び出された。


 それから小学校のマラソン大会の練習中、中学校の部活中、高校の図書委員会の会議中、私のマグマはたびたび溢れ出した。溢れ出す前には必ずと言っていいほどふつふつと音がするのだ。
 実際に溢れ出したのはその4度だけ。音が聞こえても自然とフェードアウトしていくことがほとんどで、昔から我慢をしてしまう私にはこの煮えたぎる音は日常茶飯事になっていた。



 今回は何のことでマグマが煮えたぎっているのだろう。


 溢れ出す瞬間は確かにマグマに似た禍々しさと炎のような普段の自分からは想像もできないくらい熱いものと確認できるのに、私のお腹の中で煮えたぎっているその時にはマグマというよりはお鍋だ。
 蟹とか高級な肉が入っているわけでもない、うすっぺらい豚肉と白菜、糸こんにゃくと大根みたいな庶民的すぎるもので満たされた鍋。ふつふつふつと煮えている間、いつ溢れ出すかと多少楽しみに心躍らせているところはお鍋が早く煮えないかと待っている状態と同じだ。


 溢れ出してほしいと思っているなら、我慢なんてやめればいいのに。

 学生時代の友達との青春独特の臭い話をしているときそう言われた。
 私は納得しながら、首を傾げた。そういえば、そうだ。なのに、私はどうして我慢してしまうのだろうと考えた。
 考えて分かったが、私は我慢しているという自覚がなく耐えてしまっていることに気が付いた。気が付いたからと言ってもそこから何か自分で我慢体質を改善しようなんて気は起きず、起こそうともせずにふつふつ鍋を沸かせる時間を過ごしてきた。

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