
変人を好きになりました
第12章 スターサファイア
ふとお腹の中の鍋の煮え具合を確認する。今回はどうか溢れ出さないでほしいと思った私の願いどおりまだまだ煮え切らないようでほっと胸を撫で下ろす。
「それでね、そのとき空良が寝ぼけたまま部屋に入ってきたのよ」
人目をはばからず爆笑する奈緒さんにつられるように私も思わず吹き出してしまう。奈緒さんと話しているとどんな些細なことでも面白く感じる。
「古都ちゃんって笑い上戸ね。その笑顔すごく可愛いわよね」
打ち解けるにしたがって奈緒さんは私のことをちゃん付けで呼ぶようになった。そっちのほうが親しい感じがして嬉しい。
「いえ、そんな。奈緒さんこそすごく素敵です」
「馬鹿ねー。古都ちゃんのは反則ってくらい可愛いの。分かる? きっと空良もこの笑顔にやられちゃったのね。好きな人といる時の笑顔は格別だし」
奈緒さんは私の頬を人差し指で柔らかく押した。
「でも、この可愛い笑顔を見て欲しい相手は本当に空良なのかしら」
女性にしては低音のその声が私の耳から入って、胸を突き刺した。奈緒さんの黄色のドレスのラメが目に眩しい。
乾ききった口を開こうとした瞬間穏やかな重音のメロディーが聞こえてきた。
そのメロディーと共に白いタキシードを着た男性がゆっくり会場の隅から歩いてくる。その人は綺麗に整えられた黒髪を時折木々から漏れる光に照らされながらゆっくりと長い脚で歩みを進める。
彼の気品のある恰好よさを超えた美しさに会場にいる人々が一斉に感嘆の息を漏らす。
「どこの王子様だよ」
いつの間にか隣りに来ていた空良くんが呟くのが聞こえた。私はその声に応えることはせず……応えることもできず数メートル離れた場所を歩く彼に目を奪われていた。
涼しい目をしたその人はステージに着くと、招待客を目だけで見まわした。
その視線が私の目と絡み合ったように思えたのは気のせいだろうか。まるで人形のように感情を感じさせない彼の顔から私は今の彼の心情を窺うことができない。
司会のアナウンスが頭を通り過ぎていった。何を言っているのかは理解できなかった。
ただ、私の目はずっと新郎の俯き加減の表情をどうにかしてとらえようと必死になっていた。
その時、ひときわ大きな拍手が上がった。
「それでね、そのとき空良が寝ぼけたまま部屋に入ってきたのよ」
人目をはばからず爆笑する奈緒さんにつられるように私も思わず吹き出してしまう。奈緒さんと話しているとどんな些細なことでも面白く感じる。
「古都ちゃんって笑い上戸ね。その笑顔すごく可愛いわよね」
打ち解けるにしたがって奈緒さんは私のことをちゃん付けで呼ぶようになった。そっちのほうが親しい感じがして嬉しい。
「いえ、そんな。奈緒さんこそすごく素敵です」
「馬鹿ねー。古都ちゃんのは反則ってくらい可愛いの。分かる? きっと空良もこの笑顔にやられちゃったのね。好きな人といる時の笑顔は格別だし」
奈緒さんは私の頬を人差し指で柔らかく押した。
「でも、この可愛い笑顔を見て欲しい相手は本当に空良なのかしら」
女性にしては低音のその声が私の耳から入って、胸を突き刺した。奈緒さんの黄色のドレスのラメが目に眩しい。
乾ききった口を開こうとした瞬間穏やかな重音のメロディーが聞こえてきた。
そのメロディーと共に白いタキシードを着た男性がゆっくり会場の隅から歩いてくる。その人は綺麗に整えられた黒髪を時折木々から漏れる光に照らされながらゆっくりと長い脚で歩みを進める。
彼の気品のある恰好よさを超えた美しさに会場にいる人々が一斉に感嘆の息を漏らす。
「どこの王子様だよ」
いつの間にか隣りに来ていた空良くんが呟くのが聞こえた。私はその声に応えることはせず……応えることもできず数メートル離れた場所を歩く彼に目を奪われていた。
涼しい目をしたその人はステージに着くと、招待客を目だけで見まわした。
その視線が私の目と絡み合ったように思えたのは気のせいだろうか。まるで人形のように感情を感じさせない彼の顔から私は今の彼の心情を窺うことができない。
司会のアナウンスが頭を通り過ぎていった。何を言っているのかは理解できなかった。
ただ、私の目はずっと新郎の俯き加減の表情をどうにかしてとらえようと必死になっていた。
その時、ひときわ大きな拍手が上がった。
