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変人を好きになりました

第12章 スターサファイア

 色とりどりの花びらを巻く小さな妖精みたいなフラワーガールの後ろに裾の長い豪華なウエディングドレスを着た新婦が新郎の何倍のゆっくりと歩いていた。綺麗に結われた茶色の髪の毛の上には異常に輝きを放つティアラがのせられている。ティアラのダイヤもイヤリングのダイヤも木漏れ日受けて四方八方に輝きを放つ。

 新婦は招待客に微笑みかけながら幸せそうにピンクのグロスがたっぷり塗られた唇を綺麗に吊り上げる。
 悔しいけど、綺麗だ。

 ふたりが並ぶとさらに絵になった。私たちとスーテジの間にいる招待客ごしにもふたりの綺麗な姿がよく見える。里香さんは本当に幸せそうで、とても酷い人には見えない。黒滝さんがすごく好きなんだろう。誰にも彼女の幸せを崩す権利はないなんて変なことを頭が考える。

 誰かがスピーチをしたり、ふたりが短く喋ったりするのに私はその話の意味を呑み込むことができないかった。身体が石のように固まって指先を動かすこともできない。
 気付けば、新郎新婦は向かいあって手にした指輪を交換するところだった。すごく重そうな指輪が離れていても確認できる。
 自然と握りしめられた拳の内側がじんわりと汗で湿っているのが分かった。


 ふんわりと私の堅い拳が誰かの手で包まれた。
「空良くん」
 見上げると空良くんが笑っていた。

 すごく……悲しそうな笑顔だ。自分でそんな顔をしながら私に訴えるように小声で言った。

「柊一、笑ってないね」


 ステージに視線を戻すと終始笑顔の里香さんとその隣りで能面のように無表情な黒滝さんがいた。対照的なふたりの表情は見ていて違和感を感じる。それなのに、誰もそれに気が付いていないように拍手をしている。無理矢理作ったハッピーエンドを祝うように。

「何言ってんの。柊一はもともと笑顔になったりするやつじゃないでしょー。笑顔どころか必死なった顔も動揺してる姿も怒ってる顔も見たことないわよ……でも、まあ本当に好きな人が隣りにいたらあいつでも笑顔になるんだろうけどね」
 そういいながら奈緒さんが私と空良くんの間に割って入ってきた。


 必死な顔。動揺してる姿。怒ってる顔。


 私は全部見たことがある。
 笑顔だって見た。作られたものじゃない、一瞬見せるにやりと笑うだけではない、本物を。

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