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変人を好きになりました

第12章 スターサファイア

 依頼の研究が上手くいっていると黒滝さんに似つかわしくない笑みを浮かべて帰ってくる。そして、卵焼き生活からの脱却を宣言するように何を食べたいかと聞くといつも肉じゃが、コロッケ、カキフライと答える口元は緩んでいる。

 出したご飯を美味しいとためらいながら口にした時は彼らしくなく動揺していた。

 空良くんの名前を呟いたのを聞いた黒滝さんはなんだか怒っていた。床に押さえつけられたときに見上げた顔はすごく必死で今にも泣きそうだった。



「どうかした?」
 奈緒さんが私の顔を覗き込む。

 私は真っ直ぐ前を向いて背の高い人たちの間からステージで里香さんと向かい合って誓いの言葉を言おうとしている黒滝さんを見る。
 奈緒さんが驚いたように声を上げる。
 頬に生ぬるい滴が伝って初めて自分が泣いていることに気が付いた。


『古都、もしかして恋してる?』由佳の好奇心旺盛な瞳が目の前に浮かぶようだ。『あとで教えなさいよ』と口をぱくぱくさせながら無言で伝える彼女。

『村井くんを好いているかね?』さぐるような鋭い視線を投げかけられたとき私の身体はすくんだ。岡さんは続けて言った、『自分を犠牲にしてはいけないよ』と。


『柊一、笑ってないね』



『本当に好きな人が隣りにいたら……』




 私の中の鍋がマグマに変わり穏やかに溢れ出す。マグマは怒りじゃなくて『想い』だったのだと初めて気が付いた。

 人生で一度くらい本当の自分の気持ちに正直になっても罰は当たらないんじゃないか。



 私の手を強く握りしめていた空良くんの手がふわりと離れた。続けざまに「ほら」と耳元で囁かれる。



 空良くんの馬鹿野郎。

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