
変人を好きになりました
第13章 見えた光と
急に静かになった式場は黒滝さんの誓いの言葉を待っている状態だった。
「はい」
沈黙を切り裂くように勢いよく手をまっすぐに挙げる私のほうへ全員の視線が集まる。黒滝さんが目を見開くのが見えた。
「な、なんでしょう」
司会の男性が驚いたように私を指す。
奈緒さんが額を押さえながら笑い声を我慢している。
「小学生じゃないんだから」と心底面白そうに言う奈緒さん。空良くんは「ほら、そういうとこ真面目なんだって」と含み笑いと一緒に言う。
「黒滝さん、どうして笑ってないんですか? 幸せじゃないんですか?」
奈緒さんは小さくアチャーと言いながら、「ちょっと頼まれてた仕事してくるねー」と逃げるように立ち去った。こんな時になんの仕事があると言うのだろう。
「柊一さんはポーカーフェイスなのよ」
里香さんが怪訝な顔をする。
周りの人たちも麻酔が切れたように、じょじょにざわめき始める。そんなの気にしてやるもんか。
「黒滝さんに聞いてるんです」
叫ぶような私の声に周りが再度固まる。
黒滝さんが俯いて表情が全く見れなくなった。全員の目が黒滝さんに集まるなか隣りにいた空良くんが声を張り上げた。
「どうする、柊一? データならここにあるけど」
空良くんがさっきまで私の手を握っていたその手に小さい何かを持って黒滝さんに見せるように軽く振った。
ぽかんとする私をよそに黒滝さんはぱっと顔を上げた。
その目は空良くんの手の中にあるものをじっと見た。私の突然の変な質問と空良くんの意味不明な行動に周りは完全にペースを持って行かれたみたいに唖然としている。
急に大きな笑い声が響いた。
「柊一さん?」
隣りにいる里香さんは片眉を吊り上げて黒滝さんの顔を覗き込む。それでも黒滝さんは本当に爆笑している。里香さんもそれを見てふふっと上品に口に手を添えて笑う。
「面白い冗談ね。柊一さんが幸せじゃないわけがないでしょう」
