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変人を好きになりました

第13章 見えた光と

 そんなこと思ったって、少し離れた場所で私を見て不敵に微笑む黒滝さんが誰よりも魅力的で恰好いいことは認めざるをえない。


「黒滝さん……」と小さくつぶやいた私に応えるように彼が私の方へ歩いてくる。

 ここで動かないと……またいつもの『受け身の私』に戻ってしまう。
 そう思って黒滝さんに近付こうとした時、ガラスの割れる音が鼓膜を揺らした。時を取り戻したように出席客のざわめきや悲鳴が聞こえる。


「ふざけないで! あなたみたいな女が柊一さんの隣りに並ぼうなんて許せないわ!」

 里香さんがステージにあったテーブルクロスをひっくり返して、ガラスや陶器でできた食器を全て割ってしまったらしい。私に向けられた顔は怒りで染まっている。


 私は素直に謝ろうと口を開いた。さっきまで本当に幸せそうな顔をしていた里香さんから黒滝さんを奪ってしまった原因は私にもあるのだから、彼女がどんなことを今までしてきたとしても謝る必要がある。


「余計なこと言って、式を滅茶苦茶にしてごめんなさい」
 里香さんを振り返った黒滝さんを通り過ぎて私は走って里香さんの前へ出た。


「古都さんっ」
 黒滝さんの焦った声が後ろから私を呼ぶ。
「里香さん、本当にごめ、なさ……っ」 

 私が喋っていることすら否定するように腕を思いっきり振りかぶった里香さんを見たのを最後に私の視界は一気にぼやけた。直前にはっきり見えたのは木漏れ日を受けて輝いた光。

 ここがどこで誰がどこにいるのかも見えなくなった。

 生ぬるい液体が頬を伝う。小学生の時によく嗅いだ鉄棒の嫌な匂いがする。



 今度は本格的な悲鳴とどよめきが式場に響く。誰かの大きな手が私の身体を包み込んだ。その落ち着く香りでそれが黒滝さんだということに気が付く。

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