
変人を好きになりました
第15章 知り合いと恋人
「今日もいらして下さったんですね」
私は事故に巻き込まれて軽い記憶障害を発症したらしいと白人医師から聞かされても実感が湧かなかった。だってどうして私がイギリスに?
小学3年生から4年生までの間、私はイギリスで生活していたけれど、それっきりイギリスとは無縁だったのに。一気に何があったのかを知ると記憶が混沌としてしまうのが危険と言われ、あまり情報は教えてくれない。
なにしろ私の記憶は1年と半年分そのまま抜けているという。もう22歳になっていると言われたって、20歳の私のまま22歳になっているのは変な気分だ。大家をしている家の住人は林さんと高橋さんがいたけれど、今はもう2人とも部屋を出たと聞いてもっと驚いた。私が19歳で家を引き継いでから2人はすぐに入居して、まるで家族のようにしていたというのに。すごく孤独を実感してしまう。
私にはもう血が繋がった家族がいない。それにこんな異国の地では誰もお見舞いに来てくれる人なんていない、と思っていた。
「具合はどうだ?」
クロタキさんは今日も病室に花を持ってきた。白のカッターシャツの眩しさを隠すように上にグレーのジャケットを着て颯爽と病室に入ってきた彼はそのまま私の塞がれた片目を確かめるように見て、花束を置く。
「もうすっかり良いですよ。目だって全然痛まないし」
「そうか。少しでも違和感を感じたら言うんだぞ」
「はい」
私はそう答えてくすりと笑った。
「何だ?」
クロタキさんはそれが気になったのか白磁色の肌に皺を寄せた。どんな表情をしてもすごく綺麗な人。私はもっと笑顔になってしまう。こんな人が家の住人だなんて不思議な感じだ。
「ごめんなさい。でも、クロタキさんがお兄ちゃんになったみたいで嬉しくって」
こんな恰好のいい人が兄だなんてありえないのに。兄妹がいたらこんな感じだったのかなと想像することを止められない。
クロタキさんは口を閉じてじっとしていた。
「お兄ちゃんか」
小さく独り言のように呟いた声はなぜか悲しそうだった。
私は事故に巻き込まれて軽い記憶障害を発症したらしいと白人医師から聞かされても実感が湧かなかった。だってどうして私がイギリスに?
小学3年生から4年生までの間、私はイギリスで生活していたけれど、それっきりイギリスとは無縁だったのに。一気に何があったのかを知ると記憶が混沌としてしまうのが危険と言われ、あまり情報は教えてくれない。
なにしろ私の記憶は1年と半年分そのまま抜けているという。もう22歳になっていると言われたって、20歳の私のまま22歳になっているのは変な気分だ。大家をしている家の住人は林さんと高橋さんがいたけれど、今はもう2人とも部屋を出たと聞いてもっと驚いた。私が19歳で家を引き継いでから2人はすぐに入居して、まるで家族のようにしていたというのに。すごく孤独を実感してしまう。
私にはもう血が繋がった家族がいない。それにこんな異国の地では誰もお見舞いに来てくれる人なんていない、と思っていた。
「具合はどうだ?」
クロタキさんは今日も病室に花を持ってきた。白のカッターシャツの眩しさを隠すように上にグレーのジャケットを着て颯爽と病室に入ってきた彼はそのまま私の塞がれた片目を確かめるように見て、花束を置く。
「もうすっかり良いですよ。目だって全然痛まないし」
「そうか。少しでも違和感を感じたら言うんだぞ」
「はい」
私はそう答えてくすりと笑った。
「何だ?」
クロタキさんはそれが気になったのか白磁色の肌に皺を寄せた。どんな表情をしてもすごく綺麗な人。私はもっと笑顔になってしまう。こんな人が家の住人だなんて不思議な感じだ。
「ごめんなさい。でも、クロタキさんがお兄ちゃんになったみたいで嬉しくって」
こんな恰好のいい人が兄だなんてありえないのに。兄妹がいたらこんな感じだったのかなと想像することを止められない。
クロタキさんは口を閉じてじっとしていた。
「お兄ちゃんか」
小さく独り言のように呟いた声はなぜか悲しそうだった。
