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夜会で踊りましょ!!

第16章 浴衣を着るまで…

「おまたせ…しました」
 慎太郎がわざと、佐藤と翼女の間にコーヒーを置く。

「あ!うーん、おいしそう!」
 パッと明るい顔で慎太郎が持ってきたコーヒーカップを両手で持って香りを楽しむ。

 ホッとした顔で翼女はゆっくり離れる。

「翼女ちゃん。まだ話が…」
 カップを持ったまま、翼女を追っかけるように声をかける。

「やり残した仕事してきます。ごゆっくりどうぞ」
 翼女はカンターの中に引っ込む。

「じゃ、またね」
 手のひらをヒラヒラ振ってコーヒーを飲む。

「うん。やっぱり慎太郎のコーヒーが一番おいしい♡」


「仁識…あんまり、翼女に詰めよるな。翼女が困っている…」
 慎太郎は佐藤の横に立って小さく言う。

「だってさ、慎太郎だけに橘様を任せると、翼女ちゃんの晴れ舞台ジミーになりそうだったから。つい、気合い入って…でも、ちょっとやりすぎかな?」
 たくさんのチラシをツンツン触る。

「そ、そんなに盆踊りで踊るのに気合が必要なのか?」
 理解不明とばかりな顔をする慎太郎。

「あのな『橘様の夜会』は中学二年生の男女が手を取り合って踊る…運命の人に出会えるかもしれない大事な式典!日付も毎年同じ7月30日って決まっている」
 身振り手振りしながら、興奮する佐藤。

「夏に浴衣を着て踊るんだろ?盆踊りと一緒じゃないか?」
 素っ気ない反応の慎太郎。

「盆踊りってのは、盆の時期(一般的に8月)に死者を供養するための踊り!夜会は全然違うんだよ!いつもと違う自分を見せて、意中の人の心をつかむ。橘姫もこの夜会で大志さまと踊ったと言われているんだ!」
 佐藤は溢れる思いを訴えるように言う。

「意中の人…仁識もいたのか…」
 慎太郎はうつむきながら呟く。

「?なんか言ったか?」
 聞き取れなかった佐藤。

「いや、別にたいしたことじゃない」
 慎太郎は気にするなとばかりその場を立ち去る。

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