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夜会で踊りましょ!!

第16章 浴衣を着るまで…

 コーヒー豆を置いている部屋に入る慎太郎。

 歩き方や表情はいつもの通りだが、心の中は穏やかでなかった。


(はー(怒)仁識のバカ野郎!
意中の人だ?翼女はまだ中学生だぞ。どこぞのマセガキと一緒にするな!)

 佐藤仁識が舌を出して笑う顔を思い出す慎太郎。

(どうせ、中学の頃だってヘラヘラしていたんだろう、マセガキ!!)


『いつもと違う自分を見せて、意中の人の心をつかむ…』
 そして、さっきの会話の笑顔を思い出す。


(なんなんだ、このイライラは…わかんないよ、まったく!!)
 今まで、あまり感じた事のないイライラがあふれてくる。


  バンバン
 コーヒー豆の棚をバンバン叩く慎太郎。


「お父さん?どうしたの?」
 翼女が声をかけてきた。


「大丈夫だ。心配ない」
 我に返った慎太郎が答える。



(なにやっているんだ。まったく…
今なら、客…少ないな…仁識が来ていれば、店に誰か来たら対応してくれる…
ついでにこれも持っていくか…)
 慎太郎は袋に入った、販売用の煎り豆を持って部屋を出た。


夕方の四時から六時までの二時間はお客さんが少ない。
この時間に店で出しているコーヒーの煎り豆を陳列したり、掃除したりしている。


(便利なんだよな、仁識って…)
 少し、機嫌が直ったのか顔が少し緩む。




「つ!つば…」
 慎太郎は、珍しく体をビクッとさせる。


 部屋を出て直ぐの通路でしゃがみこんで話をしている翼女の背中を見つける。


(心の声…声になってなかったよな…)


「………翼女…いつからそこに…」
 慎太郎はあわてる心を無理に抑えて言う。


 翼女は無言で父親を見上げ、人差し指でシーのポーズをしている。


 慎太郎は翼女の横を通って、豆を持って店内に向かう。



(びっくりした…まさか、あんな所で電話しているとは思わなかった…)


「あれ?どうしたの?」
 佐藤がキョトンとした顔で慎太郎を迎えた。


「な、なんでもない!」
 慎太郎はうわずった心を隠すため、少し強めの言葉を放って、商品を沈れるに向かう。

「あー、そんなに怒んないで、機嫌直してよー」
 佐藤は、子犬のような目をしながら、慎太郎についていく。

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