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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第14章 第三話 【観玉寺の廃妃】  祭りの夜

「では、こちらを」
 携帯用の硯と筆を差し出すと、ユンはさらさらと灯籠に書き付けた。

―妻と共にいつまでも暮らせますように。
                 李胤

「できたぞ」
 ユンは満足げに呟き、願い事を託した灯籠をそっと池の面に浮かべた。彼の灯籠は直にあまたの他の灯籠に紛れて判らなくなる。
 灯りを点した無数の灯籠が池の面を朱(あけ)の色に染めている。数え切れないほどの灯りが揺らめいていた。
 咲き誇る紅梅の香りが夜気に乗って運ばれてくるのか、何ともかぐわしい香りが水面を渡る風に含まれていた。

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