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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第5章 第一話【桜草】 別離という選択

「なっ」
 大妃はいささか派手すぎる紅を塗った唇を戦慄かせた。あまりの衝撃に言葉も出ないようだ。
「それでは、これにて失礼いたします」 
 息子は最早、母の方を見ようともせずに部屋を出ていった。
 大妃の脳裏にある一つの光景が浮かび上がる。記憶が巻き戻されてゆく。
 そう、ずっと以前にも、たった今とまったく同じ光景を見たのではなかったか。
 十四年前のあの日、珍しく良人である国王が大妃の許を訪れた。丁度、当時は世子だったユンもその場にいた。国王はしばらく幼い息子の相手をしてやり、滅多にないことに中宮殿にはユンの笑い声が響き渡った。

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