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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第2章 第一話 【桜草】 戸惑いと、ときめきと

「本当に何と申し上げたら良いか、若さまには感謝の言葉を幾ら申し上げても足りない」
 ソル老人の皺深い眼に涙が滲んでいる。枯れ木のように痩せ衰えて、生きているのが不思議なくらいに見える。
 その時、明姫は部屋のもう一方の隅に置いてある小さな箪笥に気づいた。その上には粗末な素焼きの花瓶があり、ひと抱えもありそうな桜草が活けられている。
 その時、二日前の桜草は、ここに持ってくるためのものだったのだと悟った。ソル爺さんの見舞いに持参したのだろうか。殺風景なこの家の中が少しは明るく春めいて見えれば良いと―。
 が、その予想は次の瞬間、見事なまでに裏切られた。パタンと戸が閉まる音と共に〝おじちゃん〟と幼子の歓声が上がった。

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