
私
第2章 三年前
「百合子様、
冷たいタオルです。」
「民江さん、
貴女一体何処へ行ってたの?」
民江はびくびくした顔で
「宮本さんとお母様のお世話をしておりました。」
「あの人のところに二人がかりで行かなくてもよろしいでしょ。」
民江がびくびくするのは私と母がもう何年も口を聞くどころか、同じ家に住んでいるのに顔も合わせてもいないからだ。
使用人の宮本は一度戦争でこの家から出たが、戦後無事に戻ってきた。
右足は不自由にはなったが、杖が無くても歩ける程度だ。
宮本は昔から居て母を大変したっている。
まるで兄弟のようで私にはそれもまた気に入らなかった。
