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それは、少し前のこと。競技を終えた楓は、退場門から自分のクラスの座席へ向かっていた。体育館倉庫の前を通りかかった時、横から出てきた誰かとぶつかった。

「ご、ごめんなさ……あ…」

相手は、またもやあの男子生徒だったのである。

「またてめえかよ！」
男子生徒は楓の腕をつかみ、思い切り拳を振り上げた。楓は尻餅をつき、目をつぶって頭をかばうように手で覆った。

…と。シャララ、と音を立てて何かが落ちた。

「これ…」
楓が拾い、じっと見つめる。どうやらそれは鈴のようなものであった。

「返せっ!!」
男子生徒が楓の手からふんだくる。……と。

「もしかして、あなたの家ってパン屋さん？」
楓がパッと顔を上げた。

「………。それがなんだよ」
急に聞かれた男子生徒は、怪訝そうな顔をした。

「…あなただったんだ」
ぽつりと呟く楓。

「あ？」
さらに眉間にシワを寄せ、何が言いたいのかわからない楓へのイライラを隠さない男子生徒。

「ずっと、探してたの。この前、学校でこの音が聞こえて…誰だろうって。…今確信した。あなただったんだね」
そう言って楓はふわりと微笑むが、男子生徒は黙ったままであった。

「昔ね。私の家、投資してて…。あるパン屋さんの株主総会みたいなのに、親に連れられて行ったの。そこで、全員にこれが配られてね」