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運命操作

第5章 捨てきれぬ想いとトラブルの火種

ぼーっと、梨花の姿を探す…あった。周りが練習を切り上げていく中、梨花とその相手は黙々と黄色いボールを打ち返し合っている。

梨花は一年生にしてレギュラー入りしている。そう言えば、もうすぐ大会があるって言ってたっけ。

今が正念場である。ギリギリまで練習したいのかもしれない…その上、片付けも残っているから、まだまだかかりそうである。

せっかくなので、あたしも自主連をすることにした。

あたしの担当楽器は、フレンチホルン。華やかというよりは優しい音で、トランペットと違いリード楽器になることは少ないが、吹奏楽にはなくてらならない楽器だと思う。ホルンの音が入ることで、なんというか…曲全体が深みを増すのである。

片付けた白い手袋を再び出してはめ、ホルンを手に取ると、楽譜の間違えやすいページを開いた。単調なバックのメロディーから、珍しくホルンが主役のメロディーになる箇所である。

短く息を吸い込み、口を当てる。静かな音楽室に、優しい音色がたどたどしく響き渡った。

だがやがて、音が止まる。

…ああ。どうしても間違えてしまう。

慣らすように、人差し指、中指、薬指を動かした。そして、よし、もう一度、と楽器を構える。

そうして、何度も何度もメロディーを繰り返した。

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