テキストサイズ

運命操作

第5章 捨てきれぬ想いとトラブルの火種

あたしは首を横に振った。じわ、と冷や汗がにじむ。

最近の楓は本当に嬉しそうであった。小学校からの付き合いだが、今まで見たことがないくらい。だから、そんな楓を…恋を知り、幸せ真っ只中の楓を、邪魔しないでほしかった。

「そうなんだ」
男は変わらぬ口調で言った。切り抜けられそうだと少しほっとした時、わずかに間を置いて男は続ける。

「…嘘じゃないよな?」

ビクリと飛び上がりそうになる。まるであたしの嘘を見抜き、反応を確かめるかのような男に、跳ねる鼓動を抑えながら首を縦に振った。

男は、それ以上追求しなかった。ふうん、と信じたともまだ疑っているとも取れる曖昧な反応を残し、前回と同じように、10秒経つまで後ろを振り返らないようあたしに指示して、そのまま何もせず立ち去った。





どうにか誤魔化し事なきを得たように思えたが、それから数日も経たないうちに事件は起こる。

それは、あたしが学校から帰ってすぐのことであった。鞄を置いてリビングでくつろぎ、やっと着替える気になって制服を脱ぎかけたところへ、梨花から一本の電話が入る。


「楓が…病院に運ばれたらしい」


凍りついた。電話口から、時折、信号が青に変わる音や車が通っていく音が聞こえてくる。梨花は病院に向かいながら携帯電話で話しているらしい。病院名を聞いたあたしは、慌てて受話器を置き、親の車で病院へ向かった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ