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“好きなところ”

第2章 Dye D?

「今日は俺、ちょっと用事があって…。ごめん!!」

「また?…最近忙しいねんな。…ええよ。章ちゃんと二人で行ってくる。」

あの日を境に、僕ら、三人で行動することがめっきり減った。気を使ってか、信ちゃんが亮からの誘いを断るようになったからだ。

「…村上くんさ、なんか頑張ってんねんな。」

「そうみたいやね。…信ちゃん顔広いし、付き合い大変そうやね。」

慌てるのも演技なのを知りながら僕は部屋を出ていく信ちゃんの背中を見送った。きっとドアの外、一人背中を丸めて歩いていくんだと思うと強く胸がきしむ。

「……二人きりでできること、しつくした感じ、ない?」

つまらなさそうに指をいじりながらソファーに座った亮の姿が、ずいぶん小さく見えた。

「……亮。」

信ちゃんの気遣いで締め付けられた心をほどくように、僕は亮の隣に座り、腕を抱き抱えた。頭をおいた肩は骨ばっていて、固かったが、それが亮だとおもうと気持ちよかった。

「…急にどうしたん?」

「…なんもない。ただ、ちょっと寒かっただけ。」

好きな人の腕を独り占めしているはずなのに、どこか満たされない孤独を感じながら、しばらく僕は細い腕に思いを預けた。

もしかしたら、このときに心に気づいていたら、こんなことにはならなかったのかも知れない。いや、きっと気づいていた。だけど、気づかないふりをしていたんだ。このときは。

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