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“好きなところ”

第1章 “好きなところ”

「な、村上君とヤれて幸せ?一緒におれて幸せ?愛し合えて幸せ?…横山君…。」

「い゛っ!?あ゛っんっぐっふぁあっ!?」

ぎちぎちと奥で音がなる。はっきりとした痛みはないのだが、限りなく気持ち悪い。

「俺は今…大好きな横山君の体が知れて嬉しい…。」

口とは裏腹にこぼれて俺の服を濡らす涙を感じた。

「…どっくん。お前、ひなにどつかれんで。」

心に空いたひとつの穴。その穴にわざと“ひな”の名前をいれた。

どっくんにとってひなの名前は、今、心を切り裂くナイフになっているんやろう。

名前を聞いたとたん、爪を経てていた指をゆっくり抜いた。俺は力が抜けて、床に座り込んだ。

「…なんで…俺やないねん…。」

さっきまで俺が頼ってた壁に、どっくんは拳をぶつけて、泣いていた。

「なんで村上くんなん…?いつも一緒におって…幸せで…なんで俺にはその幸せが…来うへんねん!!」

俺の頭に一滴、また一滴と落ちる滴を、俺は止めてあげることはできなかった。

「…ありがとう…どっくん。」

ただ、ちゃんと気持ちを伝えてやることしか俺にはできひん。

「どっくんにまで愛してもらっててんな。」

「せや…。せや!!俺は村上くんより横山くんのこと!!」

「でも!!…でも、俺の恋人は一人だけや。ひなしかおらんねん。」

酷かも知れんけど、嘘ついて、中途半端なことするより、伝えやなあかんことを伝えた方が、どっくんにとっていいことやと思うから。

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