テキストサイズ

シトイウカ

第1章 いち。

「本当は、あなたもわたしも大切なものを知っている」

朝夕が涼しくなったね

ねえ

そんな挨拶を三度も耳にしてから

湖のほとりに腰掛けて

煙草をいっぽん

ふんわりのぼる

秋風一番



ロートレックを思い出したから

私もあの人のように

なれたのかしら

と首を傾げてみる


連れ合いがいってしまって

残された私は

結局、人間は孤独なのだ

と確信している


皺が刻まれた顔が

湖面に映っている


誰も彼も

私を叱ってくれる人は

なくなってしまったよ

誰も彼も

私が甘えられる人は

なくなってしまったよ


秋風が煙をないでゆく

あの空の向こうに


終わり




ストーリーメニュー

TOPTOPへ